研究領域 | マテリアルシンバイオシスための生命物理化学 |
研究課題/領域番号 |
21H05524
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
山下 敦子 岡山大学, 医歯薬学域, 教授 (10321738)
|
研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
|
キーワード | 味覚受容体 |
研究実績の概要 |
アミノ酸感知を担うメダカ味覚受容体Taste receptor type 1 (T1r)を介した味覚受容の個体レベルでの解析系を構築することを目的に、メダカのT1r3をノックアウトし、T1r受容体機能が欠失している変異メダカ系統の個体と野生型個体について、摂食行動実験を行った。無味のプラスチック粒子および餌に対する摂食行動をビデオ記録し、両者の摂食行動に違いがあるかどうかを解析した。 また、T1r3ノックアウト変異メダカ個体と野生型メダカ個体について、免疫組織化学染色により発現組織解析を行った。すでに作製していた抗T1r3モノクローナル抗体を用いて、共同研究者によって染色されたメダカ切片を変異個体と野生型個体で比較した結果、咽頭組織に存在する味感覚器である味蕾において、野生型個体では明確な染色された味細胞が観察された一方、変異個体では染色が見られないことを確認した。この結果から、変異個体ではT1r3のタンパク質としての発現が見られないことを確認するとともに、今回の染色方法を用いて細胞レベルでT1r3の発現の有無を解析できることを確認した。 さらに、示差走査蛍光測定により、メダカT1r2a/T1r3リガンド結合ドメインに結合するリガンドスクリーニングを実施した。その結果、生理活性物質も含めた複数の化合物について、T1r2a/T1r3に結合を示す可能性のある化合物を見出した。さらにこれらが、受容体に対し、既知リガンドのアミノ酸よりもさらに「弱い相互作用」を示すことが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の目標として掲げる、T1rの生理機能の理解においては、メダカ個体を用いた解析系の構築が必要である。2021年度の解析により、正常なT1r受容体を有する野生型メダカ個体とT1rの機能欠失メダカ個体との摂食行動の際をもとに味覚受容を評価できる可能性があることを見出した。さらに、免疫組織染色において、野生型メダカ個体とT1rの機能欠失メダカ個体との比較を含め、特異性高くT1r3の発現確認が行えることを確認できた。両者ともさらなる解析の必要があるが、今後個体レベル味覚受容解析系および発現解析系の構築が期待できる予備的結果が得られていると考える。また、分子レベルでの解析では、これまでT1rに対する作用について全く報告がなかった物質について、T1rと「弱い相互作用」をすることが示唆される生理活性物質を新たに見出した。以上から、新たな本研究課題の目標達成に向け、期待される方向に予備的解析が進行し、また目標の達成に向け新たな知見が得られていることから、本課題はおむね順調に進捗していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
メダカ個体を用いた摂食行動実験についてさらに解析を進め、どのような行動が味覚受容解析の指標として用いることができるかを明らかにする。また、メダカ個体における発現解析について、2021年度には味覚受容器官以外での発現を染色像から見出すことはできなかったが、さらに探索を進め、味覚受容器官以外でT1r3の発現がみられる器官・組織を見出す。また、T1r2a/T1r3と相互作用する可能性を見出した生理活性物質について、分子レベルでの結合解析や全長T1r2a/T1r3発現細胞を用いた受容体レベルでの応答解析を行い、結合特性の詳細や受容体に対する作用を解析する。また、その作用や作用濃度域によっては、メダカ個体に投与し、実際に生体内で何らかの生理反応に関与しうるかどうかを検証する。
|