研究領域 | マテリアルシンバイオシスための生命物理化学 |
研究課題/領域番号 |
21H05527
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
藤原 祐一郎 香川大学, 医学部, 教授 (20532980)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | グルコーストランスポーター |
研究実績の概要 |
生命活動に必須の糖分は小腸から吸収され、血糖値が維持されている。ちょうど良い血糖値を維持しているのが、グルコーストランスポーター群と糖との弱い相互作用である。本研究では、小腸や腎臓の上皮細胞の膜で糖の輸送を担う、Na/グルコース共輸送型トランスポーター(SGLT)およびグルコーストランスポーター(GLUT)が、種々の糖の中から目的の糖を選別し輸送する仕組みを解明する。種々の機能解析手法を用いて、糖と輸送体の弱い相互作用の源泉となる力学の体系化、構造情報に基づいた相互作用因子を明らかにする。 1) 輸送機能を解析することにより結合に関する因子を定量化した。 培養細胞にhumanのSGLT1-5を発現させ、各種糖の結合・輸送を電気生理学的に解析した。 結合ポケットを構成する残基に変異を導入し、種々の糖の立体異性体(希少糖)を用いて実験を行い、糖との相互作用を検討した。SGLT1の変異体実験で通常は輸送しない糖を輸送させることに成功した。サブファミリー間で基質特異性を比較・実験し、基質選択性を決定する因子が、糖のOH基と親水性残基間の水素結合であることを明らかにして、原著論文にまとめ報告した。 HPLC解析を用いて卵母細胞に発現させたGLUTに輸送される各種ノンラベル糖の定量的分析に成功した。GLUT5とGLUT2のフルクトース輸送と、その希少糖による阻害を、定量的に解析することに成功した。 2) 弱い相互作用を理解するために計算化学を用いて定量化する HumanのSGLT1のホモロジー構造モデルを作成し、種々の糖を配置し、ドッキングシミュレーション解析により結合ポケット内の糖の結合安定性を解析し、結合エネルギの詳細、ポケット残基側鎖の重要性について検討した。領域内共同研究として近年構造解析されたSGLT1,2の立体構造を用いて、グルコース結合の分子動力学的解析を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
輸送機能を解析することにより結合に関する因子を定量的に解析することに成功したため。SGLTに関して成果をまとめ国際的に権威ある雑誌に論文が掲載されたため。 電気生理学的に解析が不可能なGLUTに関して、HPLC解析を用いて卵母細胞に発現させたGLUTに輸送される各種ノンラベル糖の定量的分析に成功したため。 弱い相互作用を理解するために計算化学を用いて定量化することに成功したため。さらに、専門家との領域内共同研究としてさらに進んだ手法を用いて、弱い糖結合を維持する構造基盤を明らかにする研究を開始できたため。
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今後の研究の推進方策 |
SGLT、GLUTが糖と弱い結合を保ちながら如何にして糖の選別を行っているのかを明らかにするために、分子構造情報を基に以下の解析にて相互作用因子を多元的に定量化していく。 1) humanのSGLT1は弱い結合にもかかわらず強い基質選択性を呈する。われわれはCinoaのSGLTは強い結合であるにもかかわらず弱い基質選択性を呈することを見出している。これを基盤として、培養細胞に種々の生物のSGLTを発現させ、各種糖の結合・輸送を電気生理学的に解析する。ミカエリス定数(Km)や結合解離キネティクスを算出することで糖との親和性を解析する。 結合ポケットを構成する残基に変異を導入し、種々の糖の立体異性体(希少糖)を用いて実験を行い、糖との相互作用を検討する。 我々が確立した、HPLC解析を用いて卵母細胞に発現させたGLUTに輸送される各種ノンラベル糖の定量的分析を生かして、各種GLUTに関して、サブファミリーに拡張し変異体を用いて、各種糖の輸送に関するKm値を手がかりに結合の構造基盤を解析する。 希少糖による阻害を基盤として、結合の構造基盤を明らかにする。 2) 弱い相互作用を理解するために計算化学を用いて定量化する 各種SGLT, GLUTに関して、モデル構築、ドッキングシミュレーション解析や分子動力学解析により結合ポケット内の糖の結合安定性を解析し、結合エネルギの詳細、ポケット残基側鎖の重要性について検討する。専門家との領域内共同研究を推進する。
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