研究領域 | マテリアルシンバイオシスための生命物理化学 |
研究課題/領域番号 |
21H05530
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
田中 伸弥 九州大学, 生体防御医学研究所, 准教授 (80462703)
|
研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
|
キーワード | 制御性B細胞 |
研究実績の概要 |
バイオロジクスに対する抗体産生の抑制を実現する為、バイオロジクス特異的なB細胞をバイオロジクス認識時に抑制型に転換し、細胞間相互作用を介して、同抗原を認識するT細胞を抑制するシステムの構築を目指している。当年度においては、抗原認識時において、B細胞をいかにして抑制型に転換できるか検討を行った。B細胞受容体刺激時に転写因子AHR、IRF4の強制発現を行ったところ、AHR発現では、抑制性サイトカインIL-10産生に対する誘導効果は、限定的であったものの、IRF4を導入した場合には、IL-10産生の増強が確認された。さらに、同時にいくつかのサイトカインで刺激することにより、その増強がさらに高められることを明らかにしている。また、B細胞を抑制型に転換する他の方法として、融合サイトカインGIFT15の活性について評価した。GIFT15を含有する細胞株培養液を濃縮、サイズカットすることで、分子量30KDa以下の培養液分画にGIFT15が濃縮されることを確かめた。さらに、30KDa以下、および30KDa以上の分子を含む培養液で、それぞれ脾臓B細胞を培養することによって、30KDa以下の分子を含む培養液を用いた場合にのみ、B細胞の明らかな分裂が認められ、IL-10産生B細胞を含む細胞集団を得られた。また、これらIL-10産生B細胞の一部は、プラズマB細胞のマーカーとして知られるCD138を発現していた。これは、液性因子のみによって、制御性B細胞を作製できる可能性を示唆し、バイオロジクスに対する寛容誘導に有用であると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度において、B細胞の抗原認識時にIRF4を発現させることによって、抑制性サイトカインIL-10産生を増強させることが確認され、さらにサイトカインの組み合わせによって、その効果をさらに増強させることが可能であることが明らかになった。また、GIFT15を含む分子量30KDa以下の細胞株培養液を用いたB細胞培養によって、IL-10産生B細胞を含むB細胞分画が得られることも明らかになった。これらの成果は、制御性B細胞を人為的に作製することが可能であることを示唆している。本分子基盤は、制御性B細胞との細胞間相互作用を利用してT細胞を抑制する手法の確立に有用であり、バイオロジクスに対する寛容誘導の実現に重要な鍵となる。従って、本研究計画は、概ね順調に進展しているものと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
バイオロジクスに対する抗体産生は、T細胞依存性または、非依存性に生じる。T細胞依存的な抗体産生に対しては、GIFT15を含有する細胞株培養上清を用いた培養によって得られた制御性B細胞を用い、抗原特異的T細胞の活性化を抑制できるか検討を行う。また、抗原認識時にIRF4を導入することで得られた制御性B細胞によって、T細胞の活性化抑制が可能か検討を行う。T細胞非依存的な抗体産生については、B細胞が特定の抗原を認識した場合に、細胞死を誘導するシステムの構築を試みる。これら研究計画において、T細胞依存的、非依存的な抗体産生を抑制できるかモデル抗原を用いて検証を行うことで、バイオロジクスに対する寛容誘導の確立につなげる。
|