細胞内はさまざまなイオンやタンパク質が混在していることから、タンパク質相互作用へのイオンの影響を調べる手段としては、生体外の実験系が有力な手法として主に用いられているのが現状である。また、膜タンパク質の基質との弱い相互作用機構を正確に知るためには、膜タンパク質が細胞膜近傍においてどのようなイオン環境に存在しているかを知る必要がある。しかし、生細胞内における膜近傍の環境がどのような状態にあるのかを1細胞局所レベルで計測できる手法はほとんど存在しない。そこで本研究課題では、細胞機能に必須の構成要素である膜タンパク質が存在する局所的な環境を正確に把握するために、細胞膜近傍の局所的なイオン濃度、特に細胞内pHを1細胞局所で計測可能なナノpHメーター技術の確立を進めた。これまでの結果から、pHプローブタンパク質を様々な膜タンパク質と結合させてバクテリアの細胞質膜に局在させたとき、膜貫通領域とpHプローブの間に挟まれるドメインサイズの見積もりにより、細胞膜直下では細胞質全体よりもpHが0.2ユニットほど高く、細胞膜から細胞の中心部に向かうほど徐々に細胞質全体の値に近づくpH勾配が形成されていることが示唆された。バクテリア内での計測精度を高めるとともに、これまでに確立した計測系が、真核細胞においても機能するかの検証を進めている。さらに、高イオン濃度条件で生育、発生が可能な真核細胞株の単離により、幅広いイオン濃度での生細胞計測が可能となった。
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