結晶やバルクガラスに存在する特異な構造やダイナミクスを計算科学と核磁気共鳴実験により明らかにすることを目的に研究を行った。ダイナミクスを評価するために、電池材料として研究が行われている硫化物系ガラスおよび結晶を対象に構造とLi拡散を精度良く再現できる力場パラメータを開発し、多様な組成の組み合わせと結晶からなる材料の分子動力学計算を可能にした。これにより、結晶界面や欠陥での特異なLiの並進運動を明らかにした。放射性廃棄物ガラスの研究では、放射光で得られる回折データを再現するよう原子間相互作用をスケーリングした分子動力学計算を行い、実験的に観測された固体核磁気共鳴スペクトルと構造因子データを分子動力学計算で再現することに成功した。これにより、水により表面変質したガラス表面の構造をモデル化し、ガラス中に存在するナノ空隙を分子動力学計算で再現することができた。モデル化した構造に基づいて、ナノ空隙表面の原子構造および振動特性を評価したところ、表面での高い構造の自由度を反映した特異な振動モードが観測された。この特異な振動状態は、表面から0.5nm深さの領域まで観測された。固体核磁気共鳴実験から得られるケミカルシフトと構造をリンクさせるために、密度汎関数理論(DFT)に基づく第一原理計算からケミカルシフトの理論計算(GIPAW法)を行った。層状化合物の表面に吸着したCsの構造と133Csケミカルシフトの関係を調べるために、多様な構造と吸着サイトで構成するモデル構造のDFT-GIPAW計算を行い、構造-ケミカルシフトのデータセットを作成した。得られたデータセットに基づいて構造からケミカルシフトを予測する機械学習モデルを開発した。これを用いた逆解析を実装し、実験的に得られたケミカルシフトと結晶構造(入力)からCs吸着サイト(出力)を予測する解析法を提案した。
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