研究領域 | 超秩序構造が創造する物性科学 |
研究課題/領域番号 |
21H05550
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岸本 史直 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (00835738)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | マイクロ波触媒 / ゼオライト / 再生可能エネルギー / 放射光分光 |
研究実績の概要 |
(1)Cs交換FAU型ゼオライト(Si/Al=2.8)について、大型放射光施設SPring-8において915MHzマイクロ波in situX線吸収分光(XAFS)測定および高エネルギーX線全散乱(HEXTS)測定を行い、マイクロ波によって誘起されるCsカチオン振動に基づく動的超秩序構造の実証を検討した。XAFS測定から得られるCs周りの動径分布関数からは、最近接酸素とのピーク強度と最近接アルミニウムとのピークの比が通常加熱とマイクロ波加熱で異なる温度依存性を持つことが明らかとなった。この結果は、Csカチオンがマイクロ波によって通常加熱とは異なる熱振動状態、すなわち動的超秩序構造となっていることを示唆するものである。更にHEXTS測定から得られるサンプル中の全二体分布関数からは、Cs-O結合に対するピークとゼオライト骨格中の特定のピークについてマイクロ波による明確な変化が起こることが示唆された。 (2)Cs-W-Oタングステンブロンズ結晶が、特異的にマイクロ波エネルギーを吸収して加熱することが明らかとなった。この結晶は酸化タングステンの層状構造を有しており、その層間にはCsカチオンが存在する。この材料の加熱特性を活かして、マイクロ波照射下でのメタン酸化反応系を構築した。マイクロ波照射によってメタンの完全酸化が進行しやすくなる傾向が明らかとなり、今後この知見を基にマイクロ波駆動の触媒反応系の構築を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究で当初予定していたinsitu高エネルギーX線全散乱(HEXTS)測定のみならず、in situX線吸収分光(XAFS)測定も実現することができ、十分な実験結果を得られる分光系の構築が完了した。また、学術変革領域内の他の研究者との共同でゼオライトの複素誘電関数測定や、溶液系の触媒反応への展開などもスタートできており、当初計画していた以上の進展となった。
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今後の研究の推進方策 |
(1)これまでの大型放射光施設SPring-8における915MHzマイクロ波in situX線吸収分光(XAFS)測定および高エネルギーX線全散乱(HEXTS)測定のノウハウを生かして、5.8GHzマイクロ波照射下でのinsitu分光系を構築する。これらの分光測定によって、Cs交換ゼオライトにおける動的超秩序構造が、マイクロ波周波数依存性を有することを明らかにする。 (2)ゼオライトの結晶構造、交換イオン種、Si/Alを変動させ、マイクロ波照射による応答性と誘起される動的超秩序構造の変化を解明する。特に、交換イオン種の変化は、今後の触媒反応への展開に向けて非常に重要であり、最優先に取り組む課題である。 (3)触媒反応への展開について、Cs交換ゼオライトを利用したメタン転換反応およびCo交換ゼオライトによるプロパン脱水素反応を検討する。更には、ゼオライト群のみならず一般的な固体酸塩基触媒への展開を目指して、アルカリ溶融塩によるメタン転換反応なども検討する。
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