Mgに微量の遷移金属元素(TM)および希土類元素(RE)を添加したMg-TM-RE合金は溶質クラスターに特徴づけられる規則構造形成により高強度を発現する。近年の調査から、添加元素濃度が1%以下の希薄系においても溶質クラスターの形成が示唆されてきたが、クラスター配列が明瞭な長距離秩序を示さず、その局所構造は明らかとなっていなかった。本研究では電子顕微鏡法および放射光測定を用いた構造解析により、希薄Mg-TM-RE合金における溶質クラスター構造の解析を実施した。以下に本研究で得られた主な実績を述べる。 ①新規低対称クラスター構造の発見:原子分解能電子顕微鏡を用いた直接観察および特定元素種近傍の3次元原子配列を解析可能な蛍光X線ホログラフィーを併用することにより、希薄Mg-TM-RE合金において形成された溶質クラスター構造を決定した。決定したクラスター構造は既知のMg-TM-RE合金において確認されたL12型TM6RE8クラスターに対して元素置換を伴うMg3TM3RE8クラスターであり、対称性が低下した局所構造を示すことを見出した。 ②新規クラスター構造安定性の評価:電子顕微鏡および放射光測定を用いた分光測定により、希薄Mg-TM-RE合金における電子状態を評価し、フェルミ球-ブリルアンゾーン共鳴効果に由来する安定化が寄与していることを見出した。 ③熱処理に伴う溶質分布状態変化:Mg3TM3RE8クラスターを含む希薄Mg-TM-RE合金について、熱処理前後の試料を電子顕微鏡法および蛍光X線ホログラフィーにより評価し、高温熱処理に伴ってクラスター構造が溶解し、希薄固溶状態へと変化することを確認した。クラスター構造の溶解に対応して同合金の強度が低下したことから、クラスター構造形成が材料強度に寄与していることが示唆された。
|