研究領域 | 超秩序構造が創造する物性科学 |
研究課題/領域番号 |
21H05560
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
旭 良司 名古屋大学, 未来社会創造機構, 教授 (80394625)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | 誘電体材料 / ドーピング / 第一原理計算 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
近年、巨大な比誘電率(>10^3)を示す材料が報告され、局所的な複合欠陥構造の制御によるバルク結晶の誘電率の本質的向上が可能であることが示唆されている。本研究では、複合欠陥を含む誘電体材料に着目し、その局所的な特異構造と誘電特性の相関を系統的な計算によって理解し、データベース化することにより、新規誘電体材料を発見するための手法を構築する。 まず、第一原理計算と密度汎関数摂動論(DFPT)によって、Ti系酸化物(TiO2、SrTiO3、BaTiO3)の誘電率を計算し、実験値と比較することで精度検証を行った。次に、共ドープさせたモデル構造として、ルチル型酸化物TiO2, SiO2, SnO2に対して、4価の元素(X)を3価(M)および5価(N)の元素によって同時置換させた単位胞X2MNO8を用い、それぞれの最適構造と誘電率を計算した。これらのモデル構造に対して、先行研究の機械学習予測モデルを用いて予測された誘電率の電子寄与とイオン寄与を、第一原理計算結果と比較した。 Ti系材料の誘電率は、Tiの擬ポテンシャルの選択に極めて敏感であり、誘電率のイオン寄与は、最小光学フォノン周波数の計算精度が重要であることが明らかになった。機械学習モデルを用いた共ドープモデル構造に対する誘電率(イオン寄与)の予を行ったところ、Ti酸化物に対して予測結果が総じて過小評価することがわかった。上述の様に、2021年度の研究を通じて、現状の機械学習モデルでは精度が十分はないことが明らかとなった。2022年度はこの成果を基盤に、共ドープに特有な局所的構造を特徴づける記述子の開発を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ti系酸化物は本研究において重要な物質であるが、Ti系材料の誘電率はTi原子の擬ポテンシャルの選択に極めて敏感であることが明らかとなった。特に、誘電率のイオン寄与は、ボルン有効電荷よりも、最小光学フォノン周波数の計算精度が重要であることが分かった。具体的には、Tiの擬ポテンシャルとして、4s2、3d2に加えて、3s2や3p6を価電子とした場合に、これらの光学フォノンが実験値と大きく逸脱してソフト化することが分かった。これらの詳細を検討することにより、Ti系酸化物の誘電率を精緻に評価できるようになった。研究成果は論文に取り纏め中である。 また、本計算手法を用いて、各種ドーピングを導入したTi系酸化物の第一原理計算を行い、機械学習により予測モデルを構築することに着手した。その結果、現状の機械学習モデルの課題として、予測精度を向上させるためには、ドープ材料の局所的構造を特徴づけるモデルの開発が重要であることが明らかとなった。 以上の結果より、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後、複合欠陥を含む誘電体材料に対し、その局所的な特異構造と誘電特性の相関を系統的な計算によって理解し、データベース化することにより、新規誘電体材料を発見するための手法を構築する。より具体的な研究計画を以下に示す。1.共ドープさせたルチル型酸化物TiO2, SiO2, SnO2の誘電率を第一原理計算によって計算しデータベース化する。2.上記共ドープ材料の予測モデルを機械学習によって構築する。ランダムフォーレストによって、組成や構造の特徴と誘電率の相関を詳細に調べ、誘電率を増大する構造的特徴を調べる。3.共ドープルチル型酸化物に加えて、同族元素の置換体も含めた幅広いドープ材料の誘電率データベースを構築する。4.独自に構築した上記データベースに対して、構造的特徴を誘電率の相関を調べ、上記共ドープ材料の結果と比較議論する。5.機械学習モデルとして、局所構造に敏感なグラフネットワークを導入し、その予測性能を評価する。このモデルによって、より複雑かつ大規模な構造に対する誘電率を高速に予測することが可能となり、統計的な評価を行う基盤を構築する。
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