結晶構造は物性と深く関連しているため、構造歪みの制御は物性の創出や制御のために不可欠である。ペロブスカイト関連化合物においてよく見られる配位八面体の回転は、許容因子に基づいて、カチオンの置換により制御されることが多いが、アニオンの置換や挿入による制御はほとんど報告されていない。本研究では、Ruddlesden-Popper相NaRTiO4(R: 希土類)に注目する。NaLaTiO4では配位八面体は回転していないが、LaをSmなどの小さな希土類で置換すると、配位八面体が回転した結晶構造が安定となることが報告されている。そこで、異種アニオン導入による配位八面体回転制御の可能性を検討するため、フッ素含有ポリマーを用いた低温トポケミカル反応により、NaRTiO4へフッ素を導入し、その試料の詳細な結晶構造解析を行った。特に、本年度はフッ素導入過程を調べるために、光電子ホログラフィーを行った。反応性固相エピタキシー法により合成したNaRTiO4単結晶薄膜試料およびそれに対してフッ素含有ポリマーを用いてフッ素化したものについて、SPring-8のビームラインBL25SUにおいて光電子ホログラムを測定した。NaRTiO4単結晶薄膜試料の酸素の光電子ホログラムから、バルクとは異なる結晶構造を示すことが明らかになった。密度汎関数理論に基づいた第一原理計算から予測された安定構造とも一致しないことが明らかになった。現在はその光電子ホログラムを説明可能な結晶構造モデルを検討している。フッ素化した薄膜試料の酸素とフッ素の光電子ホログラムから、フッ素が酸素とは異なるサイトに存在することが示唆された。このトポケミカルフッ素化過程についての興味深い知見が得られたと考えられる。
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