研究領域 | 散乱・揺らぎ場の包括的理解と透視の科学 |
研究課題/領域番号 |
21H05577
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
藤井 宏之 北海道大学, 工学研究院, 助教 (00632580)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | 光強度の時間相関関数 / 粒子拡散 / 拡散相関分光法 / 電磁波散乱理論 / 輻射(ふくしゃ)輸送論 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、生体ファントムであるコロイド溶液における、光の散乱、光の揺らぎ、コロイド粒子の拡散運動に関するマルチフィジックスモデルを構築し、光の揺らぎのメカニズムを統一的に理解することである。拡散相関分光法は、光強度の揺らぎの時間相関関数を計測することで、媒体深部の拡散係数を評価する。この分光法では、光の散乱、光の揺らぎ、粒子の拡散運動のモデル化が必要であるが、先行研究では別々にモデル化が行われていた。本研究では、3つの物理現象が密接に関係していることに着目する。電磁波散乱理論、輻射(ふく射)輸送論、ブラウン動力学シミュレーションに基づいたマルチフィジックスモデルを構築し、光の時間相関関数などを数値計算した上で一連の物理現象における特性時間や特性長を評価する。特性時間や特性長を無次元解析し、光の散乱と粒子の拡散運動に起因した光の揺らぎのメカニズムについて、普遍性の観点より明らかにする。この目的を達成するため、本年度は以下の2項目について研究を実施した。 1.ブラウン動力学シミュレーションを実行する計算コードを作成した。分子動力学シミュレーションと構造特性の結果を比較し、溶媒粒子による構造特性への影響は小さいことを確認することができた。シミュレーション結果より得る構造特性の妥当性を、様々な計算手法による結果を比較して、検証した。少ない粒子数であっても、バルク系を再現する計算コードを構築した。 2.シミュレーションで得た構造特性の結果を、電磁波理論の一つである干渉散乱理論に組み込み、光散乱特性を世界に先駆けて計算した。粘着性剛体球モデルの結果と比較し、光散乱特性に粒子間の引力相互作用が強く影響を及ぼすことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、ブラウン動力学シミュレーションのテスト計算のため、計算コードをC++より自分で作成した。構造特性を表す、構造因子を動径分布関数のフーリエ変換より求めたが、剛体球モデルの解析解と大きく異なり、この妥当性を検証するために時間を要した。そのため、「やや遅れている」と判断した。本年度は、以下の2項目について研究を実施した。 1.シミュレーション結果より計算する構造特性、妥当性の検証や効率化の取り組み。フーリエ変換による数値振動の可能性や、有限サイズ効果などを検証するため、様々な方法で構造因子を計算した。結果として、計算結果は妥当であり、更に有限サイズ効果を改良する計算方法を実装することができた。この計算手法により、粒子数1000個と粒子数10000個の計算結果は同等のものとなり、計算負荷の大幅な削減を達成することができた。1000個における計算時間は1時間以内であるが、10000個の場合には数時間の計算時間が必要である。ブラウン動力学シミュレーションと分子動力学シミュレーションによる、構造因子の結果はほぼ同じであり、溶媒粒子による構造特性への影響が小さいことを確認した。 2.構造因子のシミュレーション結果を干渉散乱理論に組み込み、光散乱特性の体積分率依存性を計算した。散乱特性は、剛体球モデルの解析解と同様に滑らかに変化しており、長時間平均によって、精度良く計算できていると考えられる。このような取り組みは世界で初めてである。また、粘着性剛体球モデルによる計算結果と比較し、粒子間の引力相互作用が光散乱特性に強く影響を及ぼすことを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究目的を達成するために、以下の2つの項目に取り組む。昨年度までに静的な物理量(構造特性や光散乱特性)の計算や妥当性の検証はほぼ完了しているので、今後は動的な物理量(平均二乗変位や時間相関関数)の計算に取り組む。 1.ブラウン動力学シミュレーションによる構造特性の高精度な計算のためには、長時間平均をする必要がある。GPU計算パッケージであるRUMDなどを用いて高速に長時間シミュレーションを実施する。RUMDの開発者である、ロスキレ大学のトロン准教授の協力を得ながら実施していく。また、溶媒からコロイド粒子に働く流体力学的相互作用の実装に向けて昨年度に引き続き取り組む。先ずはストークスレットの実装より試みる。シミュレーションより、平均二乗変位を計算し、光強度の時間相関関数を計算する。また、平均二乗変位より長時間拡散係数を取得する。時間相関関数より特性時間の一つである緩和時間を算出し、その体積分率依存性(最大20%まで)を解析する。 2.近年研究代表者らが開発した光散乱特性の体積分率依存性に関するモデル式、そして、徳山が導出している平均二乗変位の解析解を用いて、時間相関関数のモデル式を開発する。開発したモデル式より緩和時間などの特性時間を無次元解析する。無次元解析のための規格化因子として、散乱特性の特性長や光速を考えている。拡散運動に関する特性長と光散乱による特性長、光の揺らぎによる特性長を比較し、3種類の特性長の関係性を解析し、光強度の揺らぎの普遍性を明らかにすることを目指す。
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