本研究の目的は、生体ファントムであるコロイド溶液における、光の散乱、光の揺らぎ、コロイド粒子の拡散運動に関するマルチフィジックスモデルを構築し、光の揺らぎのメカニズムを統一的に理解することである。拡散相関分光法は、光強度の揺らぎの時間相関関数を計測することで、媒体深部の拡散係数を評価する。この分光法では、光の散乱、光の揺らぎ、粒子の拡散運動のモデル化が必要であるが、先行研究では別々にモデル化が行われていた。本研究では、3つの物理現象が密接に関係していることに着目する。電磁波散乱理論、輻射(ふく射)輸送論、ブラウン動力学シミュレーションに基づいたマルチフィジックスモデルを構築し、光の時間相関関数などを数値計算した上で一連の物理現象における特性時間や特性長を評価する。特性時間や特性長を無次元解析し、光の散乱と粒子の拡散運動に起因した光の揺らぎのメカニズムについて、普遍性の観点より明らかにする。この目的を達成するため、本年度は散乱特性に着目し、以下の2項目について研究を実施した。 1.分子動力学シミュレーションより、幾つかの粒子間ポテンシャルにおける構造特性を計算し、クラスター解析を実施した。コロイド溶液で適用される変形型のレナード・ジョーンズポテンシャルでは、引力相互作用は体積分率20%程度では限定的であることがわかった。 2.構造特性を電磁波理論の一つである干渉散乱理論に組み込み、光散乱特性を計算した。計算結果を近年代表者が提案したモデル式より解析した。引力相互作用と電場の干渉との関係性を見出した。
|