研究領域 | 散乱・揺らぎ場の包括的理解と透視の科学 |
研究課題/領域番号 |
21H05604
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
廣井 卓思 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 若手国際研究センター, ICYS研究員 (20754964)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | 動的光散乱 / ダイナミクス / 不均一性 / ソフトマテリアル |
研究実績の概要 |
本年度は白色光源を利用した動的光散乱の基礎となる、パルス光源を用いた動的光散乱の開発を行なった。パルス光源を用いた動的光散乱は、パルスの強度/時間揺らぎや波長の広がりの影響を受けて正確な測定が困難であると報告されてきた。この点を解消するために、波長532 nmの狭帯域サブナノ秒レーザーパルスを用いた、全光子記録型のソフトウェアベース動的光散乱装置を開発した。製作した装置を用いて得られた時間相関関数は、先行研究で示唆されていた緩和速度の上昇が観測された。この原因を特定するために、全光子記録型動的光散乱の数値シミュレーションを行った。その結果、散乱光パルスの強度が飽和するクリッピング効果の影響を取り込むことによって実験値を良く再現できることが示された。そこで、クリッピング効果を補正する定数を数値シミュレーションによって散乱光強度の関数として求めた。この補正によって、クリッピング効果により半数以上の光子が検出されない状況下においても正確に粒径を推定することに成功した。クリッピング効果は実験配置の詳細に依らない、検出器特有の現象であるため、本研究で得られたシミュレーション結果は全てのパルス動的光散乱に適用できる知見となっている。 本成果によって、パルス光源である白色レーザーを用いた動的光散乱を定量的に行う準備が整った。なお、検出時には白色光を分光器によって単色化するため、狭帯域レーザーパルスを用いた本研究の結果をそのまま用いることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
製作予定の装置に関し、根幹部分となるパルスレーザーを用いた動的光散乱部分については理論・実験両面で立証に成功し、論文出版に至った。また、購入予定であった白色レーザー光源は計画通り納入が完了した。いくつかの重要な光学素子の購入の遅れはあるものの、代わりに2022年度購入を予定していた倒立型顕微鏡用の電動ステージの購入まで完了している。2022年度の5月には必要な部品が全て揃い、装置製作に問題なく取り掛かれる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
(1)2021年度に導入した白色レーザーを用いた顕微動的光散乱システムを構築し、モデル物質としてポリスチレンナノ微粒子やシリカナノ微粒子の高濃度分散液を用いて、散乱光強度の時間相関関数の波長依存性を測定する。そして、得られた時間相関関数の緩和速度の波長依存性から、Brown運動では書き表せないゆらぎを当該装置で検出できることを示す。 (2)製作した顕微動的光散乱法を用いて、従来では測定することのできなかった試料の測定に取り組む。具体的には、ゲルの不均一性のマッピングおよび生体細胞中の動的光散乱に取り組む。
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