アストロサイトは、進化的に複雑な脳を持つ生物ほど大脳皮質に占める割合が増加すること、ヒトアストロサイトはマウスと比べて大きく複雑な突起を持つこ と、ヒトアストロサイトをマウスに移植することで記憶・学習の効率が良くなること等が報告されており、知性との関与が示唆されている。しかしながら、アス トロサイトのどの要素が知性に関与しているかは明らかになっていない。 我々は、アストロサイトに固有のさまざまな機能タンパク質をゲノムワイドに網羅的に解析した結果、ADRA1Aにのみヒト特異的な遺伝的変異を見つけ、正の自然選択を受けることを見出した。そこで本研究では、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)の下流に、ADRA1Aのヒト特異的遺伝的変異を導入した遺伝子改変マウス を独自に作製し、さまざまな切り口から生理学的機能の解析を試みた。マウスの行動を24時間にわたって計測した結果、睡眠・覚醒サイクルに異常が生じている可能性が示唆された。オープンフィールドテスト、新奇物体認識テスト、テールサスペンションテスト等の多角的な行動試験を行い、データ解析を行なった。その結果、オープンフィールドテストでも野生型マウスと異なる行動表現系を示すことが明らかとなった。 さらに今年度は、ヒト脳サンプルでの解析の結果から、ヒト特異的な遺伝的変異のうちisoform7が大脳皮質および海馬で強く発現していることを見出した。このことから、isoform7に焦点を絞ってあらたな別系統の遺伝子改変マウスを作製し、系統の確立に努めている。
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