脳は酸素消費が最も活発な臓器の一つであることから、脳内各領域においては、機能に最適の酸素環境から逸脱しないよう監視する酸素センシングと、それを引き金とする適応応答、特に局所への酸素送達の維持が重要になってくる。本研究では脳内の普遍的な酸素センシングの分子メカニズム及びその生理学的意義の解明を目指した。申請者らは独自の酸素センシングの新規分子メカニズムとして、遺伝子発現を伴わない比較的短いタイムスケールでの低酸素センサータンパク質TRPA1の酸素依存的な膜の挿入・脱落を見出している。このような酸素センシングの分子メカニズム解明のためには、膜タンパク質の短いタイムスケールでの動態評価が必須であるが、従来のビオチン化を用いた方法では得られる知見に限界があった。そこで、膜タンパク質の詳細な動態評価のため、時空間的に制御可能なクリックケミストリーを用いた新しいサーフェスラベリング法の確立に取り組み、低酸素依存的なチャネルタンパク質の動態評価を可能とした。 興味深いことに、アストロサイトにおいてTRPA1は比較的穏やかな低酸素センシングに必須である一方で、無酸素状態などのさらに低い酸素濃度においては、別の分子メカニズムが関与していることが示唆されており、未知の低酸素感受性チャネル群が関わっている。このことから、酸素センシングの分子メカニズムをTRPA1以外へ拡張・適応するため、低酸素感受性が報告されている電位依存性カルシウムチャネルCaV1.2に着目し、酸素センサータンパク質TRPA1との相違点及び共通点を検討した。 さらに、個体レベルにおける酸素センシングの生理学的意義を解明のため、アストロサイト特異的に酸素センサータンパク質TRPA1が欠損したマウスを用いた行動解析を行ったところ、特に記憶に関する課題で変化が認められた。
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