本研究の目的は、モノアミン制御領域である手綱核を対象とした神経ーグリア相関を調べることで、脳局所のグリア機能異常がストレス感受性など動物の生存戦略に果たす役割を明らかにすることである。この問題の解決にあたり、昨年度までに、遺伝子改変マウスDbx1-CreERT2系統を用いた時期特異的遺伝子組換え法を用いて、グリアの一種であるアストロサイトの標識に成功した。今年度は、この方法を応用し、脱分極操作を可能にする光遺伝学プローブChR2を手綱核のアストロサイトに発現させるマウスを作成し、解析した。470nmの青色光を手綱核へ照射したところ、手綱核の神経細胞の一時的な発火率の上昇を観察した。このアストロサイトを介した神経細胞の活性化の分子基盤を明らかにするため、細胞外カリウムイオンを測定するイオン選択性電極による測定系を確立した。具体的には、ダブルバレル電極の先端にカリウム選択的透過性のある抗生物質バリノマイシンを設置した電極を作成した。in vitroにおけるカリウム含有溶液を用いてin vitro測定系でカリウム濃度と電極間の電位差のキャリブレーションを行った。このデータを解析し、作成電極のカリウム感受性を測定した上で、麻酔下マウスの手綱核に設置した。実験の結果、手綱核において上記光刺激に応答する細胞外カリウムイオンの上昇を観察した。また、同様の光刺激が、マウスのオープンフィールドにおける活動性低下や尾懸垂試験における絶望行動の増悪を引き起こすことを見出した。現在これらの研究成果をまとめて論文を作成中である。 また、アストロサイトやミクログリアなどの活性化を伴う病態として敗血症モデルを解析し、続発症としてのうつ病様行動異常を見出した。その研究成果をまとめて、国際学術雑誌Shockへ発表した。
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