研究領域 | グリアデコーディング:脳-身体連関を規定するグリア情報の読み出しと理解 |
研究課題/領域番号 |
21H05630
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
神野 尚三 九州大学, 医学研究院, 教授 (10325524)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | がん / 抗がん剤 / オリゴデンドロサイト / 神経血管ユニット / 海馬 / 認知機能障害 |
研究実績の概要 |
がんと抗がん剤による認知機能障害に関する新たな研究を立ち上げるため、実験条件の最適化に取り組んだ。最初に、“Chemobrain”として知られている抗がん剤による認知機能障害のモデルとして、葉酸拮抗薬に分類される代表的な抗がん剤であるメトトレキサートを成熟オスマウスに投与する実験を行った。当初、遅延見本合わせによるオペラント条件付けでは異常を捉えることができなかったが、メトトレキサートの投与条件を調整することで、学習機能が低下するモデルの作出に成功した。さらに、オープンフィールド試験や各種の迷路試験を用いる行動テストバッテリーによる評価を進めており、メトトレキサートによって不安関連行動が増加する傾向を認めている。また、メラノーマの細胞株を新たに導入し、がん細胞移植によるがんモデルマウスを作出に取り組んでいる。予備的な結果であるが、がんモデルマウスにおいて、オペラント条件づけによる学習機能が低下する可能性を見出している。また、同モデルを用いて、行動テストバッテリーも進めており、うつ様行動の増加など、認知・情動機能にも何らかの異常が存在する可能性がある。さらに、がん移植モデルでは、海馬における神経幹細胞や新生ニューロンが減少している傾向にあることや、オリゴデンドロサイト前駆細胞の形態などに異常が認められるという予備的な知見を得ている。現在は、がんや抗がん剤が海馬機能に作用するメカニズムについて明らかにするため、がんモデル動物から血清を採取し、サイトカインアレイ・ケモカインアレイによるスクリーニングを開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抗がん剤投与モデル、がんモデルマウスの作出に成功し、行動テスバッテリーによるスクリーニングは順調に進んでいる。また、組織化学的な検討により、海馬の成体神経新生やオリゴデンドロサイトに異常を見出すなど、研究はほぼ順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
実験1 (海馬オリゴデンドロサイトとPVニューロンの形態学的・分子生物学的解析):がんモデルマウス海馬のオリゴデンドロサイトとオリゴデンドロサイト前駆細胞、PVニューロン、ペリニューロナルネット、錐体細胞の免疫染色を行う。オプティカルダイセクター法による空間分布密度の計測や、Neurolucidaを用いたオリゴデンドロサイト前駆細胞とPVニューロンの三次元再構築に取り組む。また、ミエリン、軸索、ランビエ絞輪などの免疫染色を行う。さらに、磁気ビーズとMACSカラムを用いてオリゴデンドロサイト前駆細胞と未成熟オリゴデンドロサイトを海馬から分取し、オリゴデンドロサイト関連分子の遺伝子発現変動をRT-qPCRにより明らかにする。 実験2 (ダブルパッチクランプによるオリゴデンドロサイトの機能デコーディング):PV-Creマウスの海馬にアデノ随伴ウィルス (AAV) を注入し、PVニューロンにGFPを発現させる。IR-DICとGFPに基づき、海馬CA1領域のPVニューロンと錐体細胞のホールセルパッチクランプを行い、膜抵抗や発火頻度など、一般的な電気生理学的性質の検討を行う。さらに、ダブルパッチを確立した後、2細胞の活動性の相関を記録する。PVニューロンの軸索伝導速度 (錐体細胞を支配するPVニューロンの軸索の長さ / 伝導時間) を計測し、ミエリン化率との相関等を解析する。 実験3 (多変量解析による脳・身体相互作用に関わる因子の同定):がん由来分子のケモカインアレイ・サイトカインアレイによる発現解析、行動解析、オリゴデンドロサイト前駆細胞、PVニューロン、ミエリン等の形態学的・分子生物学的解析、オリゴデンドロサイト機能のデコーディングのデータから多変量解析を行い、がんと抗がん剤、オリゴデンドロサイト、認知機能を連関する未知の因子を見出す。
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