研究領域 | グリアデコーディング:脳-身体連関を規定するグリア情報の読み出しと理解 |
研究課題/領域番号 |
21H05633
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
渡部 博貴 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任講師 (30422413)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | ミクログリア / iPS細胞 / アルツハイマー病 |
研究実績の概要 |
孤発性アルツハイマー病(AD)発症 に寄与するAPOE遺伝子のε4型(APOE4)は、ADにおける最も高い危険因子として知られている。本研究では、APOE 4型を持つヒト人工多能性幹(iPS)細胞から分化誘導したミクログリアをマウス脳内へ移植することで、ヒトミクログリア由来ApoE4の病態生理学的機能を解明する。 APOE 3/3多型を持つ健常人由来iPS細胞から、CRISPR/Cas9のゲノム編集によって、APOE 4/4のisogenic iPS細胞を作出した。同時に、ネガティブコントロールとして、ゲノム編集でAPOEノックアウトiPS細胞の作製も行い、ゲノムシーケンシングとApoE抗体によるウェスタンブロット解析でAPOEがノックアウトされていることを確認した。 次にiPS細胞からミクログリアへの分化誘導法の開発を行った。ヒトiPS細胞に複数のサイトカイン・低分子化合物を処理すると同時に、ミクログリア発生に重要な転写因子PU.1をTet-on系を用いて発現誘導することで、ミクログリア様細胞(iMGL)を分化誘導するプロトコールを確立した。その成果を論文として投稿し、受理されている。APOE 4/4 iPS細胞については、PU.1 Tet-on系で使用するプラスミドを導入後、複数クローンの選択を終了し、上記プロトコールでiMGLへ分化誘導できることを確認した。 iMGLを脳内に持つキメラマウスの開発では、移植の予備検討を行った。まずAPOE 3/3 iMGLを経鼻移植法で野生型マウスの脳へ移植し、2週間後にiMGLの定着を検討したところ、海馬・小脳・線条体にてヒト抗原であるSTEM121を発現するiMGLが観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ゲノム編集によるisogenic iPS細胞の作出などは、所属研究室にある試薬で実験を開始することができ、効率よく細胞の作製を行うことができた。また、ミクログリア分化誘導法の開発についても、本研究提案開始前から始めていたこともあり、その成果をまとめた投稿論文は採択に至った。一方、ミクログリア分化誘導に必要な各種サイトカインについては、コロナ禍での逼迫したメーカー生産体制のため、しばしば入手困難になることもあり、その間は実験が遅延する場合もあったが、平均して順調に進んでいると言える。 本研究提案で新しく開始・検討する実験については、試薬等の準備不足のため、2021年度はあまり進捗が無い結果となっている。それでも、内在マウスミクログリアを枯渇させるためのCSF1R拮抗薬(PLX3397)については、無事に海外から入手し、十分量のPLX3397含有食餌を準備できた。進行性にAβプラークを形成するAPP (NL-G-F)マウスの導入には、理化学研究所バイオリソース研究センターとの契約を締結する必要があったため、実際のマウス入手は12月になった。しかし、順調に交配を始めることができ、徐々にAPPマウスコロニーが出来つつある。
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今後の研究の推進方策 |
APOE 4/4 iPS細胞からAPOE 4/4 iMGLを分化誘導し、蛍光標識Aβ線維の貪食能やエンドトキシンに対する炎症応答能などのin vitroでの表現型を解析する。また、ゲノム編集によって、アルツハイマー病発症に対して保護的な作用をするAPOE Christchurchバリアントを導入したisogenic iPS細胞も作製し、APOEノックアウトやAPOE4遺伝子型との比較を行う。 APOE 3/3あるいはAPOE 4/4 iMGLをアルツハイマーモデルマウス(APP [NL-G-F])へ移植することで、ヒトミクログリア由来ApoE3あるいはApoE4のアミロイド病理への影響を解析する。各iMGL移植マウスから脳薄切切片を作製し、Aβやミクログリアに対する抗体で免疫組織染色を行い、アミロイド病理の大きさ、数、分布などに違いがあるか定量評価する。さらに、各iMGL移植マウスから脳組織を摘出し、可溶性および不溶性タンパク質を分離できうる段階的なタンパク質抽出を行った後、Aβ ELISAやAβウェスタンブロット解析を行う。
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