公募研究
本年度は、皮質アストロサイトの2種類の代謝調節活動(近傍神経への乳酸供給活動と局所血流調節機能)が縫線核セロトニン神経からの入力を受けて変動し、皮質神経のATP濃度最適化に寄与することを明らかにした。まず神経への乳酸供給活動については、Tph-ChR2マウスを用いた縫線核セロトニン神経の光活性化と蛍光プローブあるいは酵素電極を用いた生体計測を組み合わせ、セロトニン神経の光活性化に伴い、皮質アストロサイトの乳酸合成活動トリガーである細胞内cAMPシグナルの応答と細胞外乳酸濃度の増加が生じることを明らかにした。さらに、このセロトニン入力によるアストロサイトから神経への乳酸供給活動促進が皮質神経のATP濃度増加を引き起こしていることを、神経の乳酸輸送体(MCT2)阻害薬投与下での神経ATP濃度計測により明らかにした。次にアストロサイトの局所血流調節機能については、セロトニン神経光活性化に対する皮質アストロサイトのCa2+シグナル応答と皮質血流変動を、蛍光プローブと血流計を用いた生体計測により確認した。セロトニン入力による皮質血流変動は、一時的な増加の後に大きく減少する二峰性の変化を示した。このセロトニン依存性の皮質血流変動はグリア毒であるfluorocitrateの局所投与により減少の方向に変化したことから、アストロサイトはセロトニン入力のもとで血流増加(血流減少の抑制)方向の調節作用を示すことが示唆された。本研究の次の計画として、この血流変動が皮質神経のATP濃度に与える影響を、局所脳血流の光操作技術を用いて明らかにする予定である。
2: おおむね順調に進展している
アストロサイトの2種類の代謝調節活動がセロトニン神経性入力を受けて変動していること、そのうち神経への乳酸供給活動の促進が皮質神経ATP濃度調節に寄与していることを検証できた点で、研究計画はおおむね順調であると判断している。
セロトニンーアストロサイト代謝ネットワークによる神経のエネルギー調節機構が、神経発火活動や記憶などの脳機能の適正化に必要であることを証明する。具体的には、セロトニン神経活動を持続抑制したマウスに行動試験を行い、記憶障害や抑うつ気分を評価する。次に、セロトニン神経抑制による動物の行動障害にアストロサイトの代謝調節活動異常が関与していることを明らかにするため、記憶や気分の責任領域となる海馬あるいは皮質におけるアストロサイトの各代謝活動と神経細胞内ATP濃度の変容を確認するとともに、同領域のアストロサイト活動や脳血流、神経細胞内ATP濃度のレスキュー操作を行い、行動異常と責任神経活動の改善の有無を明らかにする。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 オープンアクセス 3件、 査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件)
Transl Vis Sci Technol.
巻: 11(25) ページ: 3773
10.1167/tvst.11.1.25
日本神経回路学会誌
巻: 28(2) ページ: 87-02
10.3902/jnns.28.87
Nat Commun
巻: 12(1) ページ: 25
10.1038/s41467-021-23987-z