研究領域 | グリアデコーディング:脳-身体連関を規定するグリア情報の読み出しと理解 |
研究課題/領域番号 |
21H05642
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
宮下 知之 公益財団法人東京都医学総合研究所, 脳・神経科学研究分野, 主席研究員 (70270668)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | 匂い嫌悪条件付け / グリア細胞 / NMDA受容体 / 連合学習 |
研究実績の概要 |
ショウジョウバエの匂い嫌悪学習では条件刺激(CS)の匂い情報と、無条件刺激(US)で、嫌悪の刺激である電気ショックの情報が記憶中枢キノコ体(MB)で連合し、嫌悪性匂い記憶が形成される。しかし、嫌悪情報がMBにどうやって伝達するかは不明なままである。今回、我々は、MBを取り囲むEnsheathing Glia(EG)が新規の小胞性グルタミン酸輸送体を発現し、電気ショックに合わせて細胞内Ca2+を上昇させ、グルタミン酸をキノコ体に向けてエクソサイトーシスしていることを見いだした。さらにEGからのエクソサイトーシスを阻害すると学習が阻害され、匂いを与えるのと同時にEGを活性化すると、匂いに対して回避的行動を起した。この結果は、EGの小胞性グルタミン酸放出が、連想学習に必要な負の価値情報(電気ショック、苦み、高温など)を伝達することを示している。電気ショックによってEGから放出されたグルタミン酸はMBのNMDA受容体(NR)に結合するが、電気ショックのみを与えた場合は、NRのMg2+ブロックにより、キノコ体へのNRを通したCa2+の流入は起こらない。ハエが匂いを嗅いだときに電気ショックを与えた場合は、Mg2+ブロックが外れ、NRを通したCa2+の流入が起こり、匂い情報と電気ショックの情報が連合することを見い出した。この結果は、古典的条件付け成立には、CSとUSの同時入力が必要であることに合致している。この研究によって、これまで神経のサポート役でしかないと考えられてきたグリア細胞が、感覚情報を伝達しているというグリア細胞の新しい機能と、古典的条件付けの成立にNRのMg2+ブロックが重要な役割を持っている事を見出し、連合学習の分子メカニズムの一端を明らかにできたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、(1)末梢の感覚神経で受容された侵害刺激が感覚情報としてEnGに至る経路を明らかにし、(2)グリア細胞から放出したGluはMBにどのように入力し、匂いの情報とどのように連合するのか?さらに、(3)これまで嫌悪情報を伝達するとされてきたDA作動性神経細胞との関わりを明らかにする目的で研究を行ってきた。(2)については2021年度の段階で明らかにできたと考えており、(3)についても大まかな枠組みについて明らかにできた。これらのことから概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、(1)末梢の感覚神経で受容された侵害刺激が感覚情報としてEnGに至る経路を明らかにし、(2)グリア細胞から放出したGluはMBにどのように入力し、匂いの情報とどのように連合するのか?さらに、(3)これまで嫌悪情報を伝達するとされてきたDA作動性神経細胞との関わりを明らかにする目的で研究を行ってきた。2022年度は,(2)と(3)の結果をまとめて論文にしながら、(1)について明らかにしたいと考えている。
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