研究領域 | 不均一環境変動に対する植物のレジリエンスを支える多層的情報統御の分子機構 |
研究課題/領域番号 |
21H05654
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
梅澤 泰史 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (70342756)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | アブシシン酸 / 乾燥ストレス / ヒストン修飾 / リン酸化 / シロイヌナズナ |
研究実績の概要 |
乾燥ストレスが不規則に変化する状況では、植物はストレス応答と生長制御とのバランスを切り替えながら、レジリエントな生存戦略をとっていると考えられる。申請者らは、このような生存戦略に関わる因子として、独自に発見したSNS1とよばれるタンパク質に着目した。これまでの研究から、SNS1は① ストレス時の生長制御や開花制御に関与する、② ヒストンアセチル化酵素複合体NuA4の構成因子である、③ABA応答を負に制御する、④SnRK2キナーゼによってリン酸化されタンパク質安定性が変化する、ことなどを明らかにしてきた。そこで、本研究では「SNS1は環境ストレス情報をヒストン修飾の形で入力し、植物の生長制御やABA応答に関与する」という仮説を立て、これを検証するための研究計画を立案した。本年度は、SNS1と植物の生長制御の関係をさらに詳細に分析し、SNS1が乾燥ストレス下における植物の生長維持に寄与していることや、生長を維持するためにはSNS1のリン酸化が重要であることなどが明らかとなった。さらに、SNS1と開花制御についても解析を進め、SNS1のリン酸化が乾燥逃避性の開花制御に重要であることも示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、SNS1のリン酸化がその機能に及ぼす影響を中心に解析を行った。タンパク質機能とリン酸化の関係を示すためにはいくつか方法があるが、本研究ではSNS1のリン酸化部位をアラニンあるいはアスパラギン酸に置換することで、リン酸化の影響を評価した。この場合、アラニン置換は非リン酸化型を、アスパラギン酸置換はリン酸化型を模擬することを期待している。この実験の進捗がきわめて順調であり、特にアラニン置換をしたSNS1が機能を喪失することが複数のデータから実証された。SNS1は、ABAシグナル伝達の中枢因子であるSnRK2によってリン酸化されるタンパク質として同定された経緯があるため、SNS1のリン酸化の重要性を示すことができたのは、本研究において大きな進展であった。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、本研究においてSNS1の生理機能については順調に解析が進んでおり、SNS1が植物の生長制御や開花制御に関与することを見出してきた。一方、SNS1はヒストン修飾に関与することが示唆されているが、その観点から見ると解析は十分とは言えない。今後は、SNS1とヒストン修飾の関係を明らかにすることが必要である。具体的には、SNS1の遺伝子破壊株等を用いてヒストン修飾を網羅的に解析するChIP-Seq解析を行い、野生型と比較することでSNS1が関与するヒストン修飾部位を明らかにする。また、個別の遺伝子についてもChIP-PCR解析を行い、SNS1の集積部位を明らかにしていく。以上の結果をまとめて、次年度内に論文投稿を目指す。
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