乾燥ストレスが不規則に変化する状況では、植物はストレス応答と生長制御とのバランスを切り替えながら、レジリエントな生存戦略をとっていると考えられる。申請者らは、このような生存戦略に関わる因子として、独自に発見したSNS1とよばれるタンパク質に着目した。これまでの研究から、SNS1は① ストレス時の生長制御や開花制御に関与する、② ヒストンアセチル化酵素複合体NuA4の構成因子である、③ABA応答を負に制御する、④SnRK2キナーゼによってリン酸化されタンパク質安定性が変化する、ことなどを明らかにしてきた。そこで、本研究では「SNS1は環境ストレス情報をヒストン修飾の形で入力し、植物の生長制御やABA応答に関与する」という仮説を立て、これを検証するための研究を実施した。 SNS1の分子機能について調べるために、SNS1と相互作用するタンパク質を探索したところ、MRG1およびMRG2が同定された。MRG1/2はNuA4の構成因子であることから、SNS1がヒストンのアセチル化に関与している可能性がより高まった。そこで、ChIP-seq解析を行ったが、意外なことにsns1変異体においてヒストンアセチル化のゲノムワイドな変化は観察されなかった。したがって、SNS1はNuA4の構成因子ではあるが、ヒストンアセチル化制御には関与しないことが示唆された。一方、sns1変異体のRNA-seq解析では、ストレス応答性遺伝子や生長制御にかかわる遺伝子の変動が見られた。機械学習を用いてそれらの遺伝子領域のヒストンアセチル化及びメチル化パターンを分析したところ、特有の変動が検出された。したがって、SNS1はヒストンのアセチル化やメチル化の変動に応じて、遺伝子発現を制御している可能性が示唆された。今後は、SNS1が遺伝子発現を制御する分子メカニズムについて解析を進めていく必要がある。
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