研究実績の概要 |
本研究では、光合成依存の葉緑体の細胞内局在変化の分子機構を明らかにするために、遺伝学的解析による当該制御系に関わる新規因子の同定をおこなった。 光合成依存の葉緑体運動を欠く変異株を探索した。その結果、変異株母集団約7,000系統から候補変異株を2系統単離できた。候補変異株は、pic (PHOTOSYNTHES-IS-INDUCED CHROLOPLAST MOVEMENT)と名付けた。Mppic1変異株は、光合成依存の葉緑体運動を完全に欠いていた。Mppic1変異株の原因遺伝子を同定するためにT-DNA上の既知配列を利用してTAIL-PCR (thermal asymmetric interlaced PCR)を行った。その結果、Mp1g05410遺伝子の5’UTR領域にT-DNAが挿入されていることが分かった。この遺伝子はフラビンモノヌクレオチド(FMN)の加水分解酵素であるFHY(FMN HYDROLASE)をコードしていた。FMNはレドックスセンサーであり、光合成、呼吸、ホルモン応答、光応答など、生体内の様々な代謝の酸化還元(レドックス)反応に関与する重要な因子である。また、FMNは発色団としてフォトトロピンと結合し、フォトトロピンの光受容を司ることが知られている。したがって、Mppic1変異株は光合成依存の応答だけでなく、フォトトロピン依存の応答にも関与する可能性がある。そこで、Mppic1変異株においてフォトトロピン依存の葉緑体運動への関与の有無を調べた。その結果、Mppic1変異株はフォトトロピン依存の葉緑体の局在変化を示さなかった。これらの結果から、MpPIC1は光合成依存の葉緑体運動とフォトトロピン依存の葉緑体運動の、両方の応答に関与する因子であることが分かった。
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