孔辺細胞は、植物独自のオルガネラである葉緑体を保持している。近年、我々は孔辺細胞葉緑体(Guard Cell Chloroplast:以後GCCと略す)が光やCO2などの環境情報感知に必須であり、気孔閉鎖を駆動する細胞膜型アニオンチャネルの活性制御に関与することを明らかにした。一方、GCCを介した環境情報処理の分子メカニズムは不明である。GCCが持つ情報制御メカニズムを解明する上で、GCCで発現しているタンパク質の理解は要になると考えられる。そこで本研究では、GCCで高発現するタンパク質に着目し、GCCに存在する環境応答因子の探索を行うことにした。まず我々は、孔辺細胞及び葉肉細胞プロトプラストからGCCと葉肉細胞葉緑体(Mesophyll Cell Chloroplast:以後MCCと略す)を単離した後、タンパク質を抽出し、LC-MSによる定量プロテオミクス比較解析を行った。GCCで高発現しているタンパク質が212個、GCCでのみ発現するGCC特異的なタンパク質が93個存在することを明らかにした。GCCで高発現しているタンパク質に絞りGene Ontology解析(GO解析)を行った結果、酸化還元反応、脂質及び糖代謝、リン酸化に関与するタンパク質が多く含まれることが判明した。また、GCCで高発現しているタンパク質の中にはシグナル伝達に関与する可能性のあるものが複数存在していた。これらのデータを基に候補タンパク質の機能不全変異体を用いて気孔応答性を解析し、気孔開閉を制御する気孔葉緑体因子の探索を行った。GCCで高発現を示した約50の候補遺伝子の点変異株及びT-DNA挿入変異株を単離し、気孔応答性を蒸散速度測定装置により定量化した。その結果、GCCで高発現を示し、気孔開閉応答を制御する3つの新規気孔葉緑体因子を同定した。
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