研究領域 | 不均一環境変動に対する植物のレジリエンスを支える多層的情報統御の分子機構 |
研究課題/領域番号 |
21H05668
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
太治 輝昭 東京農業大学, 生命科学部, 教授 (60360583)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | 高温耐性 / 長期高温ストレス / 熱形態形成 / シロイヌナズナ野生系統 / ステージゲート応答 |
研究実績の概要 |
植物は高温ストレスの長さや強度に応じて、複数のステージゲートを設けることで応答の最適解を選択している。しかし、段階的に見えるこれらステージゲート応答も実際に植物は時間重複しながら同時多面的に応答しており、「ステージをまたがる因子」の同定や、「時間軸に沿ったシグナルネットワークの変遷・制御」の理解に至っていない。そこで本課題では、1) 短期高温耐性シロイヌナズナ野生系統の解析、2) Heat Shock Factors A1 (HsfA1) 過剰発現・多重変異体の解析、3) sensitive to long-term heat (sloh) 変異株の解析、4) 細胞死抑圧変異株の解析の解析を進めた。2021年度では3) について成果が得られた。長期的高温応答に寄与する遺伝子の同定を目的に、長期高温耐性が欠損したsloh5 について解析した。遺伝学的な解析により、原因遺伝子であるSLOH5はELONGATED MITOCHONDRIA1(ELM1)と同一であり、ELM1はダイナミン関連タンパク質DRP3AおよびDRP3Bと共同でミトコンドリア分裂に重要な役割を担っていることが明らかになった。ELM1、DRP3A、DRP3B遺伝子は長期高温ストレスにより誘導され、drp3a drp3b二重変異体はsloh4/elm1 同様、長期高温ストレスに高感受性であった。またsloh5 変異体では、ミトコンドリアが数珠状に繋がる形態異常を示し、長期高温ストレスがsloh5のミトコンドリア機能障害を誘引し、細胞死を示すことが明らかとなった。さらに、ミトコンドリアのミオシンATPase 阻害剤で処理した野生株が長期高温ストレスに高感受性を示したことから、シロイヌナズナの長期高温耐性には、ミトコンドリアの分裂と機能が重要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
植物の高温ストレス応答に関する論文を国際科学誌に発表した。この論文は当該雑誌における、Research HighlightおよびEdior’s Choiceに選出され、オープンアクセス化に至った。この他、本学術領域において複数の共同研究を開始することとなり、そのうちのいくつかについては早速に成果を得るに至ったことから、「当初の計画以上に進展している」とした。とりわけ、研究項目2)HsfA1 過剰発現・多重変異体の解析については、領域内の協力を得て、上位誌への投稿目前まで準備が進んだ。
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今後の研究の推進方策 |
本課題では、短期・長期高温応答に寄与する遺伝子群を同定することで、時間軸に沿ったシグナルネットワークの変遷・制御を明らかにし、植物の高温に対するレジリエンス機構解明を目指す。具体的には、1) 短期高温耐性シロイヌナズナ野生系統の解析、2) Heat Shock Factors A1 (HsfA1) 過剰発現・多重変異体の解析、3) sensitive to long-term heat (sloh) 変異株の解析、4) 細胞死抑圧変異株の解析の解析を昨年度に引き続き進める。1)先行研究においてシロイヌナズナ野生系統の短期高温耐性における多様性を調べたところ、実験系統のCol-0はシロイヌナズナにおいて短期高温耐性が著しく低いことが判明した。興味深いことに、Col-0と耐性系統における短期高温耐性の違いは、短期高温ストレス後の光環境、すなわち不均一かつ複合的な環境の違いに起因することが明らかになってきた。昨年度、短期高温耐性Ty-0と感受性Col-0のF2個体にCol-0を4回掛け戻したNIL(準同質遺伝子系統)を作成した。本年度はこのNILを用いた生理学的・遺伝学的解析により、その耐性メカニズムに迫る。2)トマトにおけるHsfA1 多重変異株を作出し、その高温応答性を調べる。3)昨年度の成果として論文発表に至ったsloh変異株とは原因遺伝子座の異なるsloh変異株を見出しており、それらの原因遺伝子の同定および機能解析を進めることで、長期高温ストレス応答メカニズムの詳細を明らかにする。4)長期高温ストレスに曝すとプログラム細胞死が亢進するシロイヌナズナNIL_Ms-0を樹立し、その種子に突然変異処理を行ったM2種子を獲得した。本年度はこの種子より、長期高温ストレス下で細胞死が亢進しにくい変異株の単離・解析を試みる。
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