動物は自身が生み出す運動の結果を常にモニターし、その成否に照らして神経回路を再編成することで、柔軟かつ適切な運動制御を可能とする。発生・発達期に特に顕著なこの可塑性は動物が適応的な行動を実現するのに必須の機構だがその仕組みは不明である。本研究ではショウジョウバエ幼虫をモデルとしてこの問題に迫ることを目的とした。以前の研究により運動経験の感覚フィードバックの作用を受けて機能を発現し運動回路発達の足場として働くような電気シナプス依存性の神経回路を同定している。この足場回路は脊髄の各分節に存在する2ペアのニューロン(A27hおよびMニューロン)からなり、体節間をつなぎ運動ニューロンを順次活性化するような構造をもつ。足場回路は運動回路形成の最初期からIP3シグナリング依存的な自発活動を示すが、この自発活動を阻害すると胚の自発的筋収縮が損なわれることから、足場回路は自発活動により筋収縮を誘導し、その結果起こる感覚フィードバックにより自身のGJを誘導するという自己構築の仕組みが明らかになった。昨年度計画においてはこの回路再編過程の臨界期の同定と操作を試みた。その結果、胚発生後期の特定の時期における足場回路の自発活動およびGJの機能が運動回路の正常な発生に必須であることを示した。本年度は逆に光遺伝学を用いて上記の臨界期において足場回路の活動を強制的に亢進したときに、運動回路の発達に変化が起こるかを調べた。2つのパターン (1Hz、100msおよび0.125Hz、4秒)のパルス状の光刺激により足場回路を強制的に活性化したところ、いずれの場合も孵化直後の幼虫の蠕動運動が有意に遅くなることが観察された。以上の結果から、臨界期における足場回路の活動の阻害、過剰活性化が共に正常な運動回路発達を阻害することが示され、この回路の活動が適切に制御されることの重要性が明らかとなった。
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