研究領域 | 脳の若返りによる生涯可塑性誘導ーiPlasticityー臨界期機構の解明と操作 |
研究課題/領域番号 |
21H05688
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
竹田 育子 名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (30746300)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | ミクログリア / 異種感覚の可塑性 |
研究実績の概要 |
一つの感覚喪失・除去において異種感覚の可塑性が知られている。これは盲のヒトが点字を使用するときに視覚野を使うなど失われた感覚領野を残存する感覚を利用し、残存する感覚の識別力の向上に寄与すると言う概念である。近年感覚除去を施したマウスにおけるシナプス除去過程にミクログリアが関与していることが明らかとなった。本研究では異種感覚の可塑性に着目し、機能応答の変化から神経回路の機能的結合の変化、そして結合変化を誘導するミクログリアの遺伝子発現変化を探索することにより神経回路編成における分子基盤まで階層的に検討した。 まず一次体性感覚野ひげ領域から高次視覚野への軸索の投射を確認した。残存機能の向上が異種感覚の可塑性の結果におこるため、粗いヤスリと細かいヤスリによる鋭敏な感覚を必要とする刺激で神経のカルシウム活動を検討し、粗いヤスリでの刺激後に細かいヤスリでの刺激を行うと、単眼遮蔽群では発火頻度の上昇がおこり、単眼遮蔽により高次視覚野での神経回路の再編成がおこっていると考えられた。この発火の上昇はミクログリアを除去することで失われミクログリアの関与が考えられた。また一次体性感覚野ひげ領域に光感受性タンパク質チャネルロドプシンを発現した脳スライス切片を用いてパッチクランプにより単一性興奮性・抑制性シナプス後電流を計測した。単眼遮蔽群では単一性抑制性シナプス高電流のamplitudeが低下したが、ミクログリアを除去するとこの低下が認められなくなったことから、抑制性シナプスからの興奮性ニューロンへの入力が特異的に失われて、その作用はミクログリア依存的であることが示唆された。形態学的には神経細胞の周囲にミクログリアのその細胞体を密着させ、細胞体に接触する抑制性シナプスを除去していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的である単眼遮蔽マウスと対照マウスにおいて、異種感覚であるひげ刺激による視覚野の神経活動の差を抽出した。さらにその原因をミクログリアにもとめ、ミクログリアが高次視覚野の細胞体に接触し抑制性神経細胞の突起の間に潜り込み、突起からの入力を抑制することを見出した。 一方で異種感覚の可塑性により感覚識別の向上を感覚識別学習をもちいて確認を行っている。粗いヤスリと細かいヤスリを用いた感覚識別学習では対照マウスにおいても感覚識別学習は可能であり、習熟の早さに差をみとめるのみであった。そのため感覚識別学習をより複雑にする必要があると考えられ、現在改良中である。 更にミクログリアのみならず、回路編成に関与するグリア細胞としてアストロサイトが挙げられる。このアストロサイトにおいても、異種感覚の可塑性に関与している可能性があり、視覚喪失急性期と慢性期に分け、現在検討を行っている。 課題遂行による結果から新たなグリア細胞の関与の可能性が出ており、今後精神疾患モデルマウスの検討を行うと共にミクログリアのみならずアストロサイトの関与についても検討していく必要があると考える。そうすることで、先天的・後天的感覚喪失における可塑性の違いを見出し、可塑性のメカニズムを解明することで後天的な可塑性の誘導につながると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
現在までにミクログリアと異種感覚の可塑性の関連を示しており、今後はミクログリアの変化と疾患との関連を中心に検討していく。 まずミクログリアを単離しRNAシークエンスを用いてミクログリアに発現する分子群の変化を抽出し、単眼遮蔽により高次視覚野ミクログリアの変化を抽出する。またミクログリアにGFPを発現しているCx3Cr1-GFPマウスの神経細胞にアデノ随伴ウイルスによりtdTomatoを発現させ、ミクログリアとシナプス相関を可視化し、数理学的に解析する。 発達期のミクログリアによるシナプス数の制御不全が未熟なシナプスの増加あるいはシナプス数の減少を引き起こし、これが原因となって発達障害や統合失調症などの精神疾患に繋がることが示唆されている一方で、先天盲の人は統合失調症の発症に対して抵抗性をもつことが報告されている。また成熟したヒトでは視覚遮断によって幻覚などが生じ、統合失調症発症リスクが増えることが知られている。統合失調症モデルとしてSchnurri2ノックアウトマウスもしくは臨床患者を実際に反映する22q11.2欠失モデルマウス(入手済み)を用いて、先天的な視覚遮断を行い、この際の一次体性感覚野ひげ領域から高次視覚野の軸索活動を高次視覚野内の神経細胞集団活動と相関付ける。更に異種感覚の可塑性におけるアストロサイトの役割を視覚喪失時の急性期と慢性期に分け検討していく。
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