研究領域 | マルチファセット・プロテインズ:拡大し変容するタンパク質の世界 |
研究課題/領域番号 |
21H05726
|
研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
吉久 徹 兵庫県立大学, 理学研究科, 教授 (60212312)
|
研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
|
キーワード | tRNA / tRNAレパートリー / 翻訳環境 / 出芽酵母 / ミトコンドリア / リボソーム |
研究実績の概要 |
我々は酵母におけるtRNAレパートリーが生理条件でどう変化するかを、新規tRNA絶対定量法の開発などを通じて解析してきた。この中で、酵母では、発酵条件と呼吸条件とでは、後者に於いてminor tRNA全般が増加し、major tRNAが減少することを明らかにした。本計画ではtRNAレパートリーの制御が、翻訳環境を通じてタンパク質に多面性を与える可能性の検討を計画している。tRNAレパートリが個々のタンパク質の翻訳効率に与える影響は、tRNA adaptation index(tAI)で見積もられるが、発酵条件に比べて呼吸条件でtAIが上昇するタンパク質にはミトコンドリアタンパク質が多く見られることから、今年度はミトコンドリア近傍で翻訳されco-translationalにミトコンドリアにインポートされるタンパク質の翻訳状況をproximity specific ribosome profilingで解析する事を目指した。現時点では、本実験に必要な酵母株の構築など、準備段階が終了したところである。他方、tAIの変化が大きいミトコンドリアタンパク質について、コドン位置毎のtAIを、発酵時と呼吸時の実測したtRNAレパートリーを元に詳しく分析した。tAIの上昇するタンパク質にはミトコンドリア内膜のタンパク質膜透過装置TIM23複合体のサブユニットTim17やTim23も含まれるが、これらにはある程度進化的に隔たりのある酵母間でもtAIの低さが保存されているコドン位置が散在することが判った。他方、同じ複合体のサブユニットでもtRNAレパートリーでtAIの変化しないTim50では、そのようなコドン位置は極めて少なかった。こうした事から、呼吸条件下では発酵条件下ではデコーディング速度を抑えていたコドン位置をより翻訳しやすくすることで、ミトコンドリア関連タンパク質の翻訳に共役したフィルディングなどの効率を制御している可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度内に進めることを予定していたミトコンドリア近傍でco-translationalにミトコンドリアにインポートされるタンパク質をターゲットにしたproximity specific ribosome profilingについては大幅に遅れており、現在ようやくこれに必要な株が確立出来た状態である。本計画の中心課題であり、この計画に関しては次年度に向けてこ入れが必要である。発酵条件と呼吸条件とでtAIが明らかに変化するミトコンドリアタンパク質の解析に於いても、インフォマティック解析がある程度進んでいる一方で、ウェットな実験では最終的な評価に至るまでの定量データを蓄積している最中であり、次年度に持ち超すこととなった。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度積み残されているミトコンドリア近傍で翻訳されるタンパク質のribosome profilingを進めると供に、以下の3点について個別の標的タンパク質のtRNA環境依存的な多面性解析を進める。 【1】tAIが上昇したミトコンドリアに局在するタンパク質群を対象に、in vivoにおいて局在化の効率や、co-translationalな膜透過とport-translationalな膜透過の比率などが、炭素源によって影響されるかを検討する。 【2】tAIが上昇した天然変性領域を含むタンパク質群、特に核膜孔複合体(NPC)の構成タンパク質Nup等に着目し、その翻訳やNPCへの組み込み等の機能化が、炭素源によってどう影響されるか検討する。 【3】呼吸培地中で発現量の上昇するtRNA群の発現を同条件かで低下させる、あるいは、発酵培地中でこれらのtRNAの発現を上昇させることで、【1】項や【2】項で取り上げたタンパク質群の局在や働きが変化するのか検討する。また、人為的なtRNAの発現改変が酵母の生育に関してどのような影響があるかを、tAI変化でリスト化された遺伝子群で知られている表現型をベースに検討し、現実にtRNAレパートリーの制御が生理的に意味のあるものかを検証する。 tAI上昇で分類されたタンパク質群には多様な特徴が見られるが、ここでは特にミトコンドリアタンパク質と天然変性領域を含むタンパク質に的を絞り解析を進めることで確実に成果を挙げられる研究計画とすると共に、今後の他性質で分類されるタンパク質群を解析する際の研究展開の方向性を確立する。
|