研究実績の概要 |
M期染色体の骨格は、コンデンシン(I及びII)、DNAトポイソメラーゼII、KIF4aなどの染色体骨格タンパク質で構成される。本研究では、M期染色体に局在する非コードRNAがコンデンシンIの液-液相分離 (LLPS)を促進することによりコンデンシンIをM期染色体の骨格に濃縮させるという仮説をたて検証を進めた。 研究代表者らは、HeLa細胞を液-液相分離の阻害剤1,6-ヘキサンジオール (1,6-HD)を処理したところ、M期染色体は脱凝縮しコンデンシンIがM期染色体から解離することを見出している。HeLa細胞を1,6-HDと類似した構造を持つがLLPSの阻害活性が低い2,5-HDで処理したところ、M期染色体の形態変化が観察されたが、コンデンシンIのM期染色体への局在への影響は少なかった。また、LLPSによってM期染色体のセントロメアに局在することがすでに報告されているAurora Bキナーゼに関しても、1,6-HD処理によりセントロメア局在量が減少したが、2,5-HD処理は影響を与えなかった。一方、研究代表者らの予備的な実験で、DNAトポイソメラーゼIIのM期染色体局在には、RNAとのLLPSが関与しないことが見出された。興味深いことに、1,6-HD処理をした際にDNAトポイソメラーゼIIのM期染色体への局在はほとんど減少しなかった。これらの実験結果から、コンデンシンIのM期染色体局在にRNAとのLLPSが関与することが強く示唆された。 また、研究代表者らはコンデンシンIIがhCAP-D3サブユニットのC末端側の9つの塩基性アミノ酸を介してB55を含むPP2A(PP2A-B55)サブユニットと結合することを見出した。さらに、hCAP-D3の9つの塩基性アミノ酸をアラニンに置換したところ、コンデンシンIIはPP2A-B55と結合せずM期染色体骨格への局在も損なわれた。
|
今後の研究の推進方策 |
Image Jソフトウェアを用いた画像解析システムによる画像解析により、コンデンシンI及びDNAトポイソメラーゼIIの染色体局在に対する1,6-HD及び2,5-HDの影響を定量的に示すシステムを構築する。 RNAがコンデンシンIのM期染色体局在に及ぼす影響を精査するため、コンデンシンIとRNase Lの融合タンパク質を恒常発現する細胞株を構築する。本細胞株ではコンデンシンIと相互作用するRNAを任意のタイミングで分解することが可能であるため、コンデンシンIのM期染色体局在、及びM期染色体の構造や動態へのRNAの役割の細胞レベルでの理解が進むことが期待できる。 また、9つの塩基性アミノ酸をアラニンに置換したhCAP-D3とEGFPの融合タンパク質(9A変異体)を安定発現したHeLa細胞株を作製し、コンデンシンIIのリン酸化状態、染色体局在、分裂期染色体の構造や動態、及び分裂期の進行を精査する。さらに、9A変異体を含むコンデンシンIIを精製し、in vitroでPP2Aを添加した際のリン酸化状態や液滴の形成に対する影響を解析する。
|