我々はこれまでに3次元ゲノム構造解析法であるHi-C法のデータに整合する高分子動態シミュレーション手法「PHi-C法」を開発してきた。本研究課題の進めるにあたり、そのPHi-C法の計算的なボトルネックを解消することに成功したため、前年度末から引き続き、PHi-C法のアップデートおよび論文発表に取り組んだ。その結果はBioinformatics誌に掲載され、ソースコードはhttps://github.com/soyashinkai/PHi-C2で公開しオープソフトウェアとして利用可能である。さらに計算環境構築を必要としないクラウド計算環境(https://bit.ly/3rlptGI)も整備した。更新されたPHi-C法を利用することで、Hi-Cデータから高精度なゲノム高分子モデリングが可能になった。 本年度はそのようなゲノム高分子モデルを対象に流体力学的相互作用がそのダイナミクスに与える影響を調べた。特に、分裂期の凝縮染色体が再び間期に向かう期間でのHi-Cデータを用いることで、染色体サイズにわたる大きなゲノム構造の変化に対する流体力学的相互作用の寄与を調べた。前年度までの知見を利用することで、低次モードの高分子の運動は流体力学的相互作用によって緩和時間が促進されることがわかった。分裂期脱出期の高分子シミュレーションからin silico Hi-Cを行うと、実験結果と整合するためにはある程度の流体力学相互作用の寄与がなければその緩和の速さを説明できないことがわかった。さらに、高次モードの運動は500 kbサイズのゲノム領域内で協調的な運動に関係しており、さらに外力からの摂動を遮蔽する効果があることがわかった。これらの知見に基づいて、今後は論文としてまとめる予定である。
|