研究領域 | 素材によって変わる、『体』の建築工法 |
研究課題/領域番号 |
21H05767
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
熊野 岳 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (80372605)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | キチン / 多能性幹細胞 / 枝分かれ / クラゲ |
研究実績の概要 |
ヒドロ虫綱に属するクラゲでは、ポリプや走根などの表面はクチクラ層で覆われていることが知られる。エダアシクラゲの触手は枝分かれするため、クチクラ層で覆われた触手が枝分かれするのであれば、細胞部分の枝分かれと同時にクチクラ層形成 vs. 分解の制御があるはずだと考えた。そこでキチンを可視化するFITC-WGAにより触手を蛍光観察した。予備的実験では、新たに形成し伸長しつつある枝触手のstalk部分で蛍光が観察され、この観察に基づき新しい触手枝分かれのモデルを立てたが、現時点でキチンの安定した可視化に成功していない。固定する触手の時期や固定方法を変えたり、最近では電子顕微鏡での観察も始めたりしているが、いまだにキチン繊維が並ぶ層構造の確認には至っていない。電子顕微鏡観察では、枝触手が海草等の基質に接着しクラゲの体を支える時期に、内胚葉層の各細胞が異常に大きな液胞を形成し、あたかも体を支えるために枝触手に物理的な強度を与えていることを示唆する像を観察した。 また、キチン合成 vs. 分解制御を明らかにするために、エダアシクラゲ触手で発現する1種類のキチン合成酵素および2種類のキチン分解酵素を単離した。in situ hybridizationにより枝分かれしている触手内での詳細な発現場所を異なる時期の触手において調べたところ、いずれも枝触手を含めた触手全体でNBT/BCIPの染色がみられる結果となった。染色が薄いため発色時間が長くなっているため、特異的なシグナルを検出しているのか否かを、検出条件の検討により調べており、また、新たに蛍光in situ hybridizationによる染色も試している。 最後に、単離したFGF遺伝子を標的に、エダアシクラゲでRNAi法による遺伝子機能阻害を試みた結果、FGF受容体阻害剤SU5402処理によりみられる枝触手の形成抑制が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予備的実験で得られたFITC-WGAによるキチン染色の結果が、安定して再現できないため、様々な条件検討が必要となったため。また、in situ hybridizationによる染色においても、各酵素の遺伝子発現量が少ないためか染色が薄く、多くの条件検討を強いられているため。
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今後の研究の推進方策 |
キチンを認識するFITC-WGA染色により、エダアシクラゲの枝触手stalk部に確かにキチン層が存在するのか、共焦点顕微鏡観察を用いたより詳細な解析と、電子顕微鏡観察により確かめる。確認された暁には、当初の研究計画に則って、観察されたキチンの分布パターンを創り出す仕組みとその枝分かれ形成への寄与を明らかにするため、まずは、枝分かれする成長過程の各ステージの触手を固定し、FITC-WGA染色(キチン分布)パターンと、キチン合成酵素とキチン分解酵素のin situ hybridization染色(各酵素発現)パターンを比較し、キチンとその合成・分解を担う酵素の時間的な分布変化を明らかにする。また、これら酵素のin situ hybridizationと抗beta-catenin抗体染色の二重染色を行うことで、触手を構成する上皮細胞、刺胞細胞、多能性幹細胞i-cellのうち、どの細胞でキチンを合成し、分解しているのかを推定する。さらに、それぞれの酵素の機能阻害をRNAi法により行い、その際のキチンの分布をFITC-WGA染色により観察するのと同時に、触手枝分かれ形成への影響を調べる。 一方で、クラゲにおける同じ枝分かれ形成に、基質上を這う走根から、垂直方向へ成長するポリプの形成過程がある。ここでの枝分かれにおけるキチンの分布と幹細胞i-cellの分布を可視化することで、他のヒドロ虫綱種で報告があるように走根がキチンで覆われ、また、ポリプ形成部位に幹細胞i-cellが集積するか否かを調べる。確認できた場合には、上記の触手で計画した研究内容を試す。これにより、非細胞素材に依存した新規器官枝分かれ形成機構を解明する新たな場を開拓し、非細胞素材の排除と合成という2つの相反する活性がどのように協調して枝分かれを創り上げ、その協調に多能性幹細胞の機能がどう関わるのかを明らかにしたい。
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