ショウジョウバエ成虫肢のふ節の最終的な形は、蛹期に起こる「パルテノン神殿」様構造と我々が名付けた特殊構造の一過的な形成や「中ぐり」加工による上皮細胞層の薄層化を経てつくられる。「パルテノン神殿」様構造の形成過程をより高い時間解像度で詳細に観察したところ、細胞がプロセスを伸ばし始めて「パルテノン神殿」様構造の“柱”を作り始める際、細胞の基底側のみが移動し、核を含む細胞体そのものの位置は変化しないことがわかった。つまり、「パルテノン神殿」様構造形成過程の初期には、内径のみが細くなり、外形は変化しないことがわかった。また、VikingやTrol、Laminin A、Laminin Bなどの基底膜タンパク質の局在解析から、最初は基底膜がメッシュ構造をしており、それが膜状に変化することもわかった。個々の基底膜タンパク質遺伝子のRNAiでは、しばしば肢そのものが壊れてしまい、形状変化が観察できなかったが、基底膜タンパク質の分解酵素を阻害するTissue inhibitor of metalloproteases(Timp)の強制発現により、「パルテノン神殿」様構造の形成が阻害され、最終的な肢の径が太くなることがわかった。これらのことから、「パルテノン神殿」様構造形成における基底膜のリモデリングの重要性が示唆された。さらに、細胞の頂端側と蛹クチクラが細胞外マトリックス・タンパク質であるDumpy(Dpy)によって繋ぎ止められており、dpy遺伝子をRNAiによってノック・ダウンすると肢の外形が細くなることもわかった。これらのことから、基底膜のリモデリングによる内径の減少とDpyによる頂端側の固定によって、いわば細胞が伸ばされるようにして、「パルテノン神殿」様構造が形成される綱引きモデルの提唱に至った。
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