研究領域 | 素材によって変わる、『体』の建築工法 |
研究課題/領域番号 |
21H05779
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
坪井 有寿 京都大学, 生命科学研究科, 特定助教 (00904202)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 発生生物学 |
研究実績の概要 |
羽化前の昆虫の翅は、谷折や山折の入り組んだ形態をとることで、幼虫もしくは蛹の殻の中にコンパクトに「収納」され、羽化直後から一気に展開し、成虫で観察される大きな翅へと「成熟」する。これまでに、細胞運動ではなく、細胞が分泌した細胞外マトリックス (ECM)がファイバー状に成形され、羽化前後の翅形態形成の主役となることを独自に見出している。本研究は、ショウジョウバエ遺伝学を基盤に、ライブイメージングや1細胞RNA-seqの手法を用いることで、ECMファイバーの構築原理やその空間配置を決定する遺伝的基盤を同定し、組織の収納原理とその機能を明らかにすることを目的としている。 本年度は、ショウジョウバエ蛹期翅上皮組織から1細胞RNA-seq解析を行うための細胞準備に取り組んだ。ショウジョウバエ胚発生期や幼虫期で行われた1細胞RNA-seq解析の先行研究を参考に細胞準備を進めたが、完全に1細胞に乖離した細胞懸濁液を得ることが難しかった。そこで、細胞乖離を行うための酵素や機械的な乖離方法を検討し、蛹期翅上皮組織において1細胞に乖離できる条件を絞り込みつつある。 また、蛹期で形成された規則的な“収納形態”が羽化後の翅成熟にどう影響するかを明らかにするため、展開に伴って体液が翅の根元から先端まで、どのような流路で行き渡るのかを可視化することにも取り組んだ。具体的には、実体顕微鏡下でマイクロインジェクターを用いて、食紅で色を付けた生理食塩水を体腔に微量注入し、体液流路を可視化することを目指した。羽化直後の成虫に食紅を注入することには成功したが、注入した食紅が翅に十分量流れ込まず、翅展開に伴う体液流路の特定には至っていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度中に、翅上皮組織から1細胞RNA-seq解析を行うための細胞準備の手法を確立し、翅組織の各細胞遺伝子発現情報を取得することを目指していたが、完全に1細胞に乖離した細胞懸濁液が得られず、条件検討に時間がかかり、遺伝子発現情報の取得には至っていないため。また、羽化後の翅成熟に関する計画についても、注入した食紅が翅に十分量流れ込むインジェクション条件の検討が済んでおらず、翅展開に伴う体液流路の特定には至っていないため。
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今後の研究の推進方策 |
現時点で、蛹期翅上皮組織を1細胞に乖離できる条件を絞り込みつつある。今後は、細胞が完全に乖離し、かつ、細胞へのダメージが少ない手法をさらに絞り込み、各細胞の遺伝子発現情報を取得する予定である。また、羽化後の翅成熟に関する計画についても、注入した食紅が翅に十分量流れ込むインジェクション条件の検討を行い、翅展開に伴う体液流路を特定する予定である。加えて、翅組織でGFPを発現する羽化後の成虫を紫外線硬化接着剤でガラスに固定しライブ観察を行うことで、翅展開後、翅内に存在していた翅上皮細胞がどの流路を通って体腔へと回収されるかを調べる予定である。
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