研究領域 | 素材によって変わる、『体』の建築工法 |
研究課題/領域番号 |
21H05780
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山城 佐和子 京都大学, 生命科学研究科, 講師 (00624347)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | メカノバイオロジー / 細胞膜 / ずり応力 / 蛍光1分子顕微鏡 / 定量生物学 / 膜タンパク質 / 内皮細胞 |
研究実績の概要 |
生体において、細胞を取り囲む微小環境に対する細胞応答は、器官形成や組織の生理機能に必須である。本研究は、細胞が微小環境を感知し、外界の情報を細胞内に伝達する仕組みを明らかにすることを目的とし、研究を進めている。具体的には、細胞外流に起因するずり応力と、微小凹凸地形(ナノトポグラフィー)を再現する培養細胞システムについて、高精度蛍光単分子スペックル顕微鏡を組み合わせ、微小環境に接する細胞表層の分子挙動と細胞応答の連関を明らかにすることを目指している。 これまでの研究代表者の先行研究により、培養細胞に生理的範囲のずり応力を負荷すると、細胞膜タンパク質が下流方向に集積する濃度勾配形成が誘導されることを見出している(未発表データ)。2021年度は、ずり応力による膜分子拡散挙動への影響を明らかにするため、ずり応力負荷下での細胞内蛍光1分子顕微鏡解析を行った。ずり応力負荷下での生細胞を用いた蛍光1分子イメージングはこれまでほとんど報告がなく、本研究で確立した手法は、ずり応力応答に伴う分子動態を最も高精度に定量解析できる画期的な新技術である。蛍光1分子解析の結果、ずり応力下では細胞膜タンパク質の拡散挙動に流れ方向のバイアスが加わることが定量的に明らかとなった。また、主要な細胞膜タンパク質についてずり応力負荷による局在変化をライブイメージングにより明らかにした。現在、これらの成果について論文投稿準備を進めており、本研究成果は国内外の学会発表や学術論文として公開する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、外界に直接接する細胞膜タンパク質に着目し、細胞が微小環境を感知し、外界の情報を細胞内に伝達する仕組みを明らかにすることを目的としている。2021年度は、ずり応力負荷下での細胞膜タンパク質蛍光1分子イメージングと、そのデータを元に拡散挙動の定量的解析を行った。この研究成果から、細胞外流が膜タンパク質の拡散挙動に流れ方向のバイアスを加えることで、細胞膜上を運搬している可能性が強く示唆された。ずり応力負荷下での生細胞を用いた蛍光1分子ライブイメージングはこれまでほとんど報告がなく、ずり応力の力覚応答に伴う分子動態を最も高精度に定量解析できる画期的な新技術である。また本研究成果は、重要な未解決課題であるずり応力方向感知機構の解明に繋がることが期待できる。現在、これまでの研究成果を元に論文投稿準備を進めている。以上のような、研究の大きな進捗から、研究は概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果から、細胞外流が膜タンパク質の拡散挙動に流れ方向のバイアスを加えることで、細胞膜上を運搬している可能性が考えられる。本年度は、この可能性を検証するため、蛍光1分子定量解析とシミュレーション解析を組み合わせた研究を進める。顕微鏡観察による分子挙動定量データから、細胞膜タンパク質の拡散挙動の性質や拡散係数値を明らかにする。また、ずり応力が拡散挙動に与える影響を詳細に解析する。これらの実験データから得られるパラメータ値を用いてシミュレーション解析を行い、ずり応力が誘導する細胞膜タンパク質濃度勾配形成機構の理解を目指す。既にアメリカリーハイ大学の研究グループとシミュレーション解析及びインビトロ再構成系実験の共同研究を始めており、顕微鏡イメージング解析とこれらの手法を合わせて、ずり応力による細胞膜分子濃度勾配形成機構の解明を進める。 また昨年度までの研究により、代表的な細胞膜タンパク質である接着分子、GPIアンカー型分子、受容体についてずり応力による濃度勾配形成が引き起こされることを明らかにした。一方、濃度勾配形成の程度は、細胞膜タンパク質によって異なっていた。本年度は、濃度勾配形成の起こりやすさが、どのような膜タンパク質の特徴に依存するのか、明らかにする。具体的には、遺伝子操作により膜貫通、細胞外、細胞内の各ドメインを改変してずり応力応答性を検討し、勾配形成がどのような特徴に依存するのか明らかにする。 さらに、これまでの研究成果について、学会等で報告し多くの研究者と議論するとともに、学術論文として投稿し発表することを目指す。
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