組織の形態は、その機能発現に必須であり、遺伝的に厳密に決められている。例えば、消化管は、他の臓器と結合できる向きや大きさでなければならない。組織の形態は、それを構成する細胞の移動や変形によって形作られると考えられているが、非細胞素材の寄与についてはあまり明らかにされていない。非細胞素材の中に、基底膜を構成する細胞外マトリックスがあげられる。基底膜は、組織の外側を取り囲み、組織の形態維持や透過性の制御に不可欠であるが、細胞外マトリックスが、組織の形態形成そのものに寄与する可能性が考えられる。本研究課題は、ショウジョウバエ胚の消化管をモデル系として、非細胞素材である細胞外基質による消化管の形態形成機構を明らかにすることを目的とした。 ショウジョウバエ胚の後腸は、初め左右対称な構造として形成された後、左ねじ回りに捻転し左右非対称な形態となる。その左右非対称な捻転時に、細胞外基質であるコラーゲンIVが時空間的に特異的に後腸の周囲で抑制されていることを見出した。その抑制が、後腸の捻転に必須なのではないかと考え、その制御因子を探索したところ、ラミニンAおよびB1の異所発現が後腸の捻転に影響を与えることがわかった。ラミニンAおよびB1単独の過剰発現で、後腸の捻転が遅れるまたは止まることがわかり、同時の過剰発現で表現型が増強された。捻転前の後腸におけるコラーゲンIVの蓄積も同時過剰発現で観察された。これらの結果から細胞外基質の局在制御による形態形成の機構が示唆された。
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