研究領域 | 素材によって変わる、『体』の建築工法 |
研究課題/領域番号 |
21H05789
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
松尾 光一 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (40229422)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | 細胞キラリティ / 左右相称 / 筋骨格 / ホヤ / 筋線維 / らせん |
研究実績の概要 |
多くの動物の基本骨格が左右相称である細胞基盤の詳細は不明である。生命の構成要素となるアミノ酸やアクチン、ミオシンなどの分子は、対となる鏡像体のどちらか一方に偏った「ホモキラリティ」を示すことが多いことから、ホモキラルな要素が集合して、左右相称の筋骨格系が、細胞、細胞集団、組織と個体レベルまでスケールを積み上げて形成されるメカニズムの解明を目指した。2021年度は、脊索動物であるホヤ(カタユウレイボヤ、Ciona robusta)の個体における細胞レベルのホモキラリティの存在を偶然にも見出すことができた。受精後18時間程度で得られる3,000個ほどの細胞からなるホヤのオタマジャクシ型幼生を用い、X線イメージングやライトシート顕微鏡による蛍光イメージングなどを駆使し、尾部の片側18個、両側36個の筋細胞のそれぞれの細胞膜直下において、筋線維が、左右に関わらず例外なく左螺旋構造をしていることを示した。右螺旋と左螺旋は互いに鏡像関係にあることから、左螺旋の筋線維をもつ筋細胞が両側性に存在していたことはin vivoにおける細胞レベルのホモキラリティに他ならない。このホモキラルな筋細胞の核は、正中にある脊索を挟んで、ほぼ左右相称の位置に配列していた。これらの解析結果は、ホヤにおいては細胞を超える大きなスケールで個体レベルの左右相称を実現していることを示している。これらの結果をまとめ論文発表を行った。並行して行っているマウスにおける細胞レベルのホモキラリティの解析を先導する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ホヤ(Ciona robusta)の両側の筋細胞に左螺旋の筋線維を観察したことから、「鏡像関係の一方だけのホモキラルな要素を用いて見かけ上の左右対称性を作るのが生命の形作りの普遍性である」という可能性を、一気に示すことができた。つまり、右ねじだけを用いて(左ねじを使わずに)左右相称建造物を構築する状況に例えられる。「ホモキラルな要素が集合して、左右相称の筋骨格系がスケールを積み上げて形成されるメカニズムの解明」のためには、骨や骨細胞、破骨細胞、骨化前線、血管系、神経系のイメージングが必須である。これらの可視化技術と画像解析の手法が確立してきた。
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今後の研究の推進方策 |
推進方策1(隠れた左右非対称性に着目):単純で小さな実験モデル動物であるホヤにおいて、細胞のホモキラリティの概念が確立したので、哺乳動物(マウス)を用いた研究に進む。その際、本来、高度に左右相称と考えられている筋骨格系に、細胞レベルのホモキラリティに由来する、有意で再現性のある隠れた左右差を、マイクロCT像などをもとに新たに探索し、それを手がかりに左右相称の筋骨格系がスケールを積み上げて形成されるメカニズムの解明を目指す。
推進方策2(螺旋に着目):ホヤの筋細胞の研究から、螺旋に着目するとキラリティの解析が、細胞や組織レベルで実施できることが明らかになった。そこで、研究対象を、らせん構造を形成する構造に範囲を広げて探索し、体の左右で右螺旋と左螺旋になっているのか、それとも鏡像の一方だけが存在するのかを示しつつ、ホモキラリティのメカニズムを追究する。
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