研究領域 | 実世界の奥深い質感情報の分析と生成 |
研究課題/領域番号 |
21H05796
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
栗木 一郎 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (80282838)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | リアリティ / 知覚的ノイズ / 色 / 運動 / VR / HMD |
研究実績の概要 |
視覚的リアリティは脳活動が現実と同じ時に生じるという仮説を提唱している.現実の脳活動には様々なノイズが混入しており,ノイズを低減しながら目的とする情報を得ることが現実世界に直面した脳が行なっている作業である.この仮説は,例えば模型やコンピュータグラフィクスにおけるリアリティの向上のために行われる「汚し」という作業や,複製骨董品の「古色づけ」,実物の顔の左右非対称性などに立脚している.プラスチック模型は,最初の状態では何も塗装されていないが,リアリティを向上させる目的で「素」の状態に汚れを書き加える.しかし,物体の形などの特徴を把握するには変に色が塗られていない方がいい.コンピュータ上の画像処理による物体認識では,色やノイズ,不足部分の補完を行う前処理が必須である.現実のシーンではこの「前処理」に相当する脳内の情報処理が必ず伴う.このノイズに関する処理がリアリティを向上させていることを確認するための実験を行った. 最初の実験では VR ゴーグルを用い,頭部の動作に伴う表示画像の追従が,物体の明度知覚をどの程度向上させるかを確認する実験を行った.物体の明度知覚は,照明光と反射率の積を分解し,反射率の情報を得ることで得られる.つまり,照明環境の情報が適切に判断される必要がある.通常の生活の中では,照明光の強度が様々に変化しても正しい明度知覚が得られる明度恒常性がある.明度恒常性は,実物による実験で成績が高く,平面的な画像では成績が低い.そこで,VR ゴーグルで提示した仮想環境が,実物による照明環境とどの程度近いかを明度恒常性を指標として調べた.その結果,頭部動作による表示画像の追従がある方が明度知覚が正確になり明度恒常性の成績が高くなった. この結果は,自己運動により画像に「ノイズ」が加わることによりシーンに関する知覚のリアリティが高まったことを示していると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
VRゴーグルを使用した研究を行い,頭部動作に追従して変化するディスプレイの画像がより正しい知覚を与えるという知見を国際会議(ACA2022)において報告することができた.この成果を投稿論文としてまとめる作業を行なっているが,一部の検証実験のデータ解析が遅れ,予定より論文化が遅れている.
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今後の研究の推進方策 |
論文化に必要とされる検証実験のデータ解析を速やかに進め,研究成果を原著論文として投稿する.
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