研究領域 | 実世界の奥深い質感情報の分析と生成 |
研究課題/領域番号 |
21H05807
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
白松 知世 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 助教 (30750020)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | 音楽 / リズム / 同期運動 / ラット |
研究実績の概要 |
本研究は,音の質感として音楽のリズムに注目し,リズムが身体運動を誘起するメカニズムを明らかにすることを目的とする.具体的には,ラットを研究モデルとして,リズムに同期した身体運動を決定づけるのは,種固有の運動リズム特性か,それとも脳のリズム情報処理の種固有の特性かを検証する. 本年度は主に,行動実験として刺激音提示中のラットの頭部運動を計測した.無線加速度計を固定するケースをラットの頭部に設置し,自由行動中の3軸の加速度を計測した.刺激音として,リズムが明確な音楽 (モーツァルトのピアノソナタK.448) を,原曲のテンポに対して100% (132 BPM (beat per minute)),75% (99 BPM),200% (264 BPM),400% (528%) の再生速度で提示した.ビート同期運動の強さを定量化するために,センサで得た加速度から各時刻の加加速度を求めて,ビート周辺と,それ以外の部分における加加速度の比率を算出した.その結果,75%と100%の再生速度では,ラットの首振り運動がビートに対して強く同期した.身体の大きさのみが,運動リズム特性,具体的には同期運動の特徴を決定づけると仮定すると,身体が小さいラットは,ヒトの数倍のテンポの音楽によく同期することが期待される.しかし実際には,ラットはヒトと同程度のテンポの音楽に対して,最も強い同期運動を示した.この結果は,リズムに同期した身体運動は,身体のスケールから独立し,かつ,ヒトとげっ歯類の間で保存されている要因,例えば,脳の情報処理の特性によって特徴づけられていることを示唆する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画の第一段階として,リズムに同期した身体運動の決定において,種固有の運動リズム特性が主要な要因である可能性が低いことを,ラットの行動実験データから示した.また,行動実験で用いた音楽を含む,リズミックな音列に対する聴覚野の神経活動の計測も計画通りに進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
行動実験では,リズムに同期した身体運動と,種固有の運動リズム特性との関係をより詳細に調べるため,異なる姿勢のラットで,同様に音楽の拍に対する同期運動を調べる.そのための手法として,引き続き加速度センサを使用するほか,画像解析による姿勢推定も取り入れる. また,生理実験として,ラットが同期運動を示した音楽や,リズムのみをクリック音で再現した「音楽様音列」,音列間隔がポアソン分布に従う「不規則音列」,メトロノームのような「規則的音列」,明確な小節を有する「リズム音列」に対する,聴覚野の神経活動を引き続き計測する.得られた神経活動において,聴覚野の神経細胞の発火パターンや集団的な局所電場電位 (LFP) の特徴を調べることで,リズムに同期した身体運動と,脳のリズム情報処理の特性との関係を明らかにする.
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