研究領域 | 実世界の奥深い質感情報の分析と生成 |
研究課題/領域番号 |
21H05810
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
永井 岳大 東京工業大学, 工学院, 准教授 (40549036)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | 感性的質感 / 物質的質感 / 心理物理学 / 脳波 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、光沢感などの物質的質感と美しさなどの感性的質感の脳内情報処理における関連性を明らかにすることである。具体的には、しばしば仮定される物質的質感と感性的質感の処理間の階層構造が本当に正しいのかを検証する。2021年度は様々な質感を判断する際の応答時間を心理物理学的により計測し、それらの質感の因果関係の手がかりを得ることを目標とした。 そのため2つの心理物理実験を行った。第1の実験では、様々な物質的質感と感性的質感の心理量の相関関係を明らかにするために、多数の物体画像から構成された刺激群に対し、様々な質感の心理量をサーストンの一対比較法によって計測した。測定した質感は、光沢感、透明感、ざらざら間、しっとり感、温かさ、硬さ、綺麗さ、好き、触りたい、高級感、新しさであった。その結果、多くの物質的質感・感性的質感の心理量の間に相関関係があることを改めて確認することができた。さらに、計測した心理量をもとに、様々な質感の間で回答難易度が統制された刺激対セットを作成することができた。これは、質感の種類間で応答時間を測定するための重要な準備となった。 実験2では、実験1で作成された刺激対セットを用い、サーストンの一対比較法による心理物理実験において全質感・感性項目の応答時間を計測した。その結果、平均応答時間について質感の種類によって違いがあり、例えば光沢感、ざらざら感、好きといった項目で応答時間が短い傾向にあった。しかし、物質的質感と感性的質感の間に応答時間に有意な違いはなかった。一方、質感の種類の組合せごとに、応答時間の大小により刺激群を分類すると、その間で相関の強さに違いがあった。この情報に基づくことて、脳内情報処理の様々な質感の間の因果関係に関する手がかりを提供できる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度の大きな目的は、心理物理学的な応答時間に基づき、物質的質感と感性的質感の関連性を見出すことであった。2021年度には実際に心理物理実験を行い、単純な平均時間には物質的質感と感性的質感に大きな違いがない一方で、様々な質感の間の相関関係を解析する際に刺激ごとの応答時間を考慮することで、因果関係の手がかりが得られる可能性を見出すことができた。さらに、多くの物体画像に対して質感の心理量を精度良く求めることができた。これは2022年度に行う予定である脳波実験において、物体画像刺激と心理量、さらに脳波の対応関係を見るための重要なデータとなる。このことから、心理物理学的な応答時間から様々な質感の関連性を見出すための基礎データを十分に得ることができており、概ね順調に研究が進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の前半には、2021年度の実験データを用いて、物質的質感と感性的質感の間の因果関係の手がかりをさらに得る。具体的には、様々な質感の間における心理量の相関をなすデータのうち、 応答時間が早い質感から遅い質感に対してのみ因果的関係性があり得るという仮定に基づき、心理量の関係性を統計的に解析する。最終的には、パス図として質感間の因果的関連性を示すことを目標とする。 続いて、2022年度の後半には、心理物理実験と同じ刺激群を用いて、刺激観察中の脳波を計測する。そのデータに対し脳波の皮質分布に基づいて各評価項目の心理量をデコーディングする。その結果に基づき、様々な質感に関わる脳波の時間帯とおおよその脳部位を推定する。最終的には、心理物理的実験と脳波計測実験の結果を組み合わせることで、物質的質感と感性的質感の階層構造を明らかにすることを目指す。
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