2021年度には、様々な素材の物体画像に対する心理物理実験を行い、光沢感や透明感などの物質的質感知覚、また好みや美しさなどの感性的質感知覚について、心理量を計測した。さらに、同じ刺激群を用いて、一対比較をさせる刺激間の心理量の差について評価項目間で統制した上で、応答時間を計測した。その結果、物質的質感判断と感性的質感判断では応答時間に大きな違いがないことが分かった。しかし、応答時間そのものは評価項目間の因果関係を示すものではない。 そこで、2022年度の前半には、2021年度の実験データを用いて、物質的質感と感性的質感の間の因果関係を検討した。具体的には、質感項目間で心理量に相関があるデータのうち、応答時間が早いものから遅いものにおいてのみ因果的関係性があり得るという仮定に基づき、心理量の関係性を統計的に解析した。パス図により質感項目間の関連性を見出することを目的に、上記の仮定によりデータの取捨選択を行った上で、様々な質感項目の心理量について重回帰分析により解析したところ、異なる質感項目の影響の方向性を可視化できた。この結果は、質感項目間の関係性を明らかにする上で、心理物理学的応答時間が重要な役割を果たすことを示唆している。 続いて、心理物理実験と同じ刺激群を用いて、刺激観察中の脳波を計測した。その脳波を用いたサポートベクターマシンにより、各質感の被験者応答を推定できる脳波の時間帯の推定を試みた。その結果、精度は低いものの物質的質感と感性的質感の被験者応答を脳波からある程度推定できる可能性が示された。また、被験者の質感判断の態度(例えば早く判断する必要があるかどうか)によって、被験者判断の推定に有用な脳波時間帯が異なる可能性が示された。これらの結果から、脳波が物質的質感と感性的質感の惹起の関係性を探るツールとして有用であることが示唆された。
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