研究実績の概要 |
本研究では快情動の客観的な測定を可能にする身体反応の指標をつくり、快情動が生じる脳内メカニズムを理解する。おいしい食べ物や優れた芸術は私達に喜びや多幸感をもたらす。喜びも多幸感も私達の生活を豊かにする重要な質感である。しかし、快情動体験の脳内メカニズムは五感を通じた物体の質感認識に比べて理解が進んでいない。理解が進まない一因は、快情動体験を客観的に定量評価することの困難さである。本研究では遺伝子工学を用いた侵襲的実験が可能なラットを用いて快情動が生じる神経機構を明らかにすること、そのために快情動体験を動物で客観的に評価するための指標をつくることを目指す。動物がおいしさ体験をしたときの身体反応を指標に快情動体験を記述し、快情動の形成に関わる神経機構を明らかにする。 2022年度は前年度に引き続きラットの超音波発声(ultrasonic vocalization, USV)を指標とした情動測定を実施した。前年度の研究で、オスラット2匹をペアにした状況下で嗜好性の高い食物(チョコレート)を摂食すると、short 50 kHzに分類されるUSVを発声することがわかった。USVはスペクトログラム上での波形特徴にもとづき複数のサブタイプに分類できる。本年度は機械学習(ロジスティック回帰)を用いて、チョコレート摂食時に特有のUSVサブタイプを見出した。本研究成果は、機械学習によるラットUSV分類が特定の行動状態ひいては情動状態を推定するために有用なアプローチであること、またラットUSVが食による快楽的情動の指標となる可能性を示すものである。
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