擦り動作時の摩擦と表面特徴(粗さ)がやわらかさ判断に影響する事実を実験的に追究した.具体的には,摩擦係数と摩擦変動パターンが異なる資料を3Dプリンタで作成し,それらを指で擦って,やわらかさを判断する心理物理実験を実施した.摩擦を統制するために,資料の表面粗さ(ミクロ特徴)と勾配パターン(マクロ特徴)を操作した.参加者実験の結果,ミクロな表面粗さを有する表面は,平らで粗さが小さい(算術平均粗さで10マイクロメートル以下)樹脂面よりも硬く感じられた.さらに,マクロな表面粗さを有する表面は,平らで粗さが小さい表面よりやわらかく感じられた.以上の事実は,参加者12名の実験結果より,統計的に支持された.また,この実験では3種類の弾性係数が異なるレジン(樹脂)を用いた.弾性係数が小さいほど,やわらかいと感じられた.樹脂の弾性係数と表面特徴の主効果は,分散分析によって確認され,両者の相互作用は認められなかった. さらには,人工肌モデルを用いて,類似の実験を行った.ここでは,やわらかさが異なる7種類の肌モデルを用いた.これらは粉体潤滑によって摩擦を操作された.摩擦が低下する潤滑と,摩擦が増加する潤滑の両方を施した.実験参加者は,肌モデルを擦り,その心地よさに得点を付けた.この結果からは,摩擦係数が小さいほうが,触り心地がよく感じられることが統計的に示された.また,実験参加者の指の硬さをデュロメータで計測しており,これらが,人工肌モデルを擦ったときの心地よさに影響していることが明らかになった.
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