研究領域 | 実世界の奥深い質感情報の分析と生成 |
研究課題/領域番号 |
21H05820
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
鯉田 孝和 豊橋技術科学大学, エレクトロニクス先端融合研究所, 准教授 (10455222)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | 色覚 / スペクトルイメージング / シミュレーション / 心理物理実験 / 視覚 |
研究実績の概要 |
日常目にする対象物の色は不均質である。それが一様な物質で構成されている物体であっても、色素濃度の不均一性、凹部面での相互反射、厚みなどによって色が変わる。このような局所的には色や輝度が異なる状況であっても、われわれは全体として単一の物体と認識しており、単一の色として認識している可能性が高い。そのような不均質な色は色空間でどのように分布しているのだろうか?本研究ではシミュレーションと実物の測定を通じて、色空間内で特徴的な色変化の傾向を発見した。 色素濃度や光路長による分光吸収の程度によって、色は光源の白色から暗く鮮やかな色へと変わる。この光学過程は分光分布のべき乗によって求めることができる。そこでランダムな分光吸収率を基にべき乗計算で得られる色度変化を多数求めた。得られた色空間内の軌跡群から全体の傾向を確かめたところ、ほとんどの軌跡が色空間内で曲線となることが明らかになった。曲線には色度ごとに傾向があり、明るい黄色からオレンジ、赤に向かう曲線や、明るい黄色から黄緑、緑に向かう曲線などが多く観測された。 また、学術変革領域内の共同研究を発足し、佐藤いまり(NII)ら所有のスペクトル画像装置を用いて実物体の測定を行った。その結果、色づいた液体を用いて光路長を変えると、理論通りにべき乗で色変化が生じることや、透明水彩で濃度グラデーションを描くとシミュレーションで発見されたような曲線を描くことが明らかになった。 シミュレーションと実測によって得られた軌跡群は、色相に関する知覚特性として広く知られるAbney効果と極めて良い一致を示すことも分かった。Abney効果とは、色空間内で同じ色相に知覚される色度を繋ぐと、曲線を描く現象である。現象は古くから広く知られているにもかかわらず、その起源や理論的背景についてはほとんど理解されてなかった。本研究はその理論的基盤となるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画は色覚の特殊な現象であるAbney効果から着想を得たのに対して、学術変革領域内での分野を超えた議論によってより一般的な研究の動機付けや導入を考えるに至った。その結果、多くの関心が得られ、共同研究につながった。共同研究では、申請者がスペクトルイメージングに関して不慣れであったため、正確に効率的に計測できることとなった。実物体とシミュレーションの一致が得られたことから、本研究の色素濃度による色変化が自然界で広く生じている現象である可能性が高まった。以上の成果からおおむね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでシミュレーション結果は、色平面上の曲線の傾向として定性的に解釈されてきた。今後は量的な議論を行うために、曲率の度合いと各色相との関係性について、色空間を直線で分割する光の主波長との比較を行う。各波長およびマンセル色空間での色相と比較して、どの色相領域がどのような曲率を持つことが多いのか、軌跡の分散とともに定量的な議論を行う。これまでは色空間としてCIE-xy色度図を用いてきたが、生理学的な色情報表現との対応を評価するために、LMS錐体色空間にもプロットして評価する。軌跡が収束する色相や曲率が切り替わる色相は、錐体応答と関係するのか評価する。 本研究で得られた曲線群は、色空間に隠されていた色素濃度によるグラデーションという特性である。このようなグラデーションを画面に表示した際の色の見えを評価する必要がある。そこで色名呼称実験ならびに、赤青黄緑の比率でのレーティング実験を行う。既存の色の見えの評価は概して色空間の1点に基づいていたが、本研究によりグラデーションの見えというより自然な状況での色知覚が理解できるようになるだろう。また色度図の1点を通る様々な色素の中には、濃度変化により全く異なる軌跡を描くことがある。そのような濃度変化による色グラデーションをディスプレイ上で再現し、それぞれがどの程度違う色として認識できるのか、あるいは同じ色に見えるのかを評価する。
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