研究課題の核心をなす学術的問いを「空間型拡張現実感による光線操作が,現実を超える質感を実現することができるか?」と定め,光線場の計測と投影によって現実を超える質感を創出することを目的として,「現実の光沢を超える光沢への操作」と「異方性反射の光学的な操作」について研究した. 現実の光沢を超える光沢への操作では,複数のカメラと複数のプロジェクタを用いた光線場補償フィードバック系を構築し,無質感化した操作対象の外観が本来の質感と一致する様に光線場を操作する「光線場補償フィードバック系」を構築することで,現実を超える質感の創出を試みた.メタリック塗装を施した石膏像に対する光沢強調の実験では,輝度ヒストグラムによる評価において光沢が向上し,現実の光沢を超える光沢の創出が確認された. また,異方性反射の操作では,環状に配置した6対のプロジェクタとカメラを用い,反射特性の計測と光線場投影によって異方性反射の光学的な操作を試みた.金糸や絹糸を用いた平織りや綾織によって複数の反射特性が混在する帯地に対して実験を行ったところ,鏡面反射と拡散反射の成分分離だけでなく,鏡面反射成分の異方性を可視化することにも成功した.さらに,計測した反射特性をAshikhminの反射モデルに当てはめて,パラメトリックに異方性を操作する光線場の生成方法を確立した.帯地のほかに,サテンなどの生地,また,ヘアライン加工の金属板などの異方性反射を持つ素材に対して,提案手法による異方性反射の操作を試みたところ,光学的に現実の物体の見た目の異方性が変化することが確認できた.その一方で,提案手法では複数の方向の異方性が混在する物体では提案手法が有効に機能しないという手法の限界が確認された.
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