最終年度となる本年度は、まず双対過程を用いた統計量計算において、離散的構造処理に基づく理論において用いられてきた従来手法を利用するための工夫について検討した。確率微分方程式の統計量を計算する際、確率的なシミュレーションを何回も繰り返し、その結果の平均を取るなどの操作が必要となる。この方法であれば平均や分散などのさまざまな統計量を計算できるが、一方で工学的に利用価値の高い統計量は平均や分散といった低次の統計量だけであり、無駄な計算を削減する余地が残されている。そこで本研究では、双対過程および組合せ論的なアルゴリズムにより、確率的なサンプリング不要で、低次の統計量を「狙い撃ちして」計算する。本研究で扱う双対過程は化学反応系のような形で記述され、どの反応が何回生じて粒子数がゼロになるか、という「反応の組合せ」を求める必要がある。しかし検討の結果、領域代表の湊真一教授が提案したZDDやフロンティア法などの、従来用いられてきた手法を素朴に使うだけだと、反応の組合せを保存する圧縮効率が悪いことが明らかとなった。そこで、分割数という概念をフロンティア法に適用する工夫を導入した。これにより、大幅に圧縮効率を高めることに成功した。実際に具体的な事例において、素朴な数え上げでは10ステップの反応の組合せの計算も困難であったが、本工夫によって20ステップの計算も容易にできるようになった。また、他の数値実験により、大きな値をとる状態からの寄与が小さいこともわかった。これらの知見から、双対過程を利用した近似計算において、計算量を削減できる見込みを得られた。 全体として、これまでフロンティア法等の分野で用いられてこなかった分割数を利用したアイデアに到達することができ、学術変革領域の広がりへと貢献できたと考えている。
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