研究領域 | 社会変革の源泉となる革新的アルゴリズム基盤の創出と体系化 |
研究課題/領域番号 |
21H05844
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伝住 周平 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 助教 (90755729)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | 圧縮索引 / 離散構造 / 決定グラフ / 組合せ集合族 / 数理構造 / 近似 |
研究実績の概要 |
従来手法で扱われてきた離散構造よりも複雑な対象を表現し操作できるようなデータ構造の実現を目指し研究を行ってきた.本課題を開始して半年のためまだ具体的な成果はないが後述の進展があり,論文を準備中である.本研究の主要な対象となる離散構造のひとつである組合せ集合族は3段の括弧を用いて表される深さ3の構造であると言うことができる.一方,決定グラフ的な有向非巡回グラフを用いた圧縮手法は基本的に深さ2の倍数の構造を圧縮することに適しており,余る深さ1をどう扱うかが課題であることがわかってきた.そのギャップを埋めるための単純な手法としては,①従来の決定グラフではラベルとして組合せの一要素が使用されてきた節点ラベルを組合せそのものに拡張する方法,と②組合せ集合をリスト形式で並べる方法,の2つの極端な組合せ集合族表現手法が考えられる.しかし,それらの中間に存在するようなデータ構造を考えられるはずである.そこで,組合せ集合族の認識の仕方を変更し,疑似的に深さ4の構造であるとみなすことで決定グラフ的なデータ構造による表現を可能にする方法を検討した.また,その新たなデータ構造を用いることでどのような操作を行う演算が実現可能かや演算のアルゴリズムおよび計算量の解析を行っている.さらに,組合せ集合族だけでなくそれとほぼ同型な論理関数の集合に関しても同様の考察を進め,それらを応用できる問題や設定について議論を実施している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
決定グラフのような有向非巡回グラフによる圧縮手法を抽象化した上でその特徴を明文化した.これによって決定グラフを用いて離散構造を表現する際の制約をより正確に把握し,技術を俯瞰する新たな視座を得ることに成功した.また,以下に記述するような厳密性を保ったままより高い階層の離散構造を処理する手法を確立できたため現在論文化を進めている.ベースラインとなる単純な手法として,既存の二分決定グラフを複数用いることで上の階層の構造を表現する手法と,既存の二分決定グラフのラベルを単なる要素から組合せに拡張する手法を用意した.前者は高階の構造が一要素あるごとに少なくとも一つの二分決定グラフ節点が必要とされるため空間計算量の面での限界は存在するが,演算や検索を行う既存のアルゴリズムを自然に使用できる点がメリットとして考えられる.両者をより抽象的に捉え統合することで,データ構造そのものからより高い階層の概念を扱うことができるようなデータ構造を開発した.複数の組合せ集合からなる組合せ集合族や,文字列集合を集めた言語集合などこれまでより一つ上の階層に属する概念を表現するためのデータ構造となる.それらとともに開発したデータ構造上でどのような演算を行いたいかを洗い出し,それを実現する効率の良いアルゴリズムを作成した.
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今後の研究の推進方策 |
近似を従来通りの二分決定グラフに導入する方法を検討する.近似アルゴリズムの分野は歴史が長く数多くの研究成果が存在するため,二分決定グラフに適用できるような親和性の高い手法を見つけるための調査を実施する.特に動的計画法は二分決定グラフの構築に非常に関連が深いことがこれまでの研究から知られているため近似動的計画法について重点的に考慮し,利用可能かどうか積極的に検討していく.また,二分決定グラフの近似索引化をする際には,既に存在する二分決定グラフが与えられる場合と,最初から近似化した二分決定グラフを構築もしくは通常の構築を行いながら近似化する場合と2通りの設定が考えられる.本研究ではまず前者の静的な設定において近似を行うアルゴリズムを考案し,次いで後者の動的な近似を行うアルゴリズムの開発に進んでいく.また,近似の尺度においてもいくつかのパターンが考えられる.組合せ集合の近似を行う場合だと,集合としてみたときの真の集合からの距離や差分を考慮する設定と,集合に含まれる各組合せに着目したときに真の要素からの差異を考慮する設定がありうる.それぞれの設定に対し適切なアルゴリズムを考察する.加えて近似を行った際の精度保証をいかに実現するか,そのために余分に必要な空間計算量はどれほどになるかの理論的検証も並行して進める.近似化した二分決定グラフの節点か辺にあるべき値からの差異を示す数ビットの情報を付与することで精度を示す方法などを現在考えている.以上のような方針の全てを1年という限られた研究期間内で実行するのは難しいと予想されるのでそれぞれの方向性の実現可能性を同時に検討しつつ,成果が得られそうなものから優先的に取り組むことで本研究期間の終了までに有益な結果を出すことを目指す.最終的には得られた高階層の離散構造を扱うデータ構造と開発した近似索引の構築法を融合させることで本研究の目的を達成する.
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