研究領域 | 分子サイバネティクス ー化学の力によるミニマル人工脳の構築 |
研究課題/領域番号 |
21H05867
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
水内 良 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任助教 (60845535)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | 人工細胞 / 多細胞 / ゲノム複製 / RNA / 無細胞翻訳系 / 分子通信 / 液―液相分離 / 再構成 |
研究実績の概要 |
本研究では、液-液相分離によって形成する液滴を人工細胞として用い、独立の液滴に封入された2種類のRNAゲノムが、液滴間の情報伝達を介して協調的にゲノム複製する、人工多細胞型ゲノム複製システムを構築する。このために、まず近年独自開発した協力的なRNA複製システムを液滴内で駆動させる。本システムではRNA 1が複製酵素を、RNA 2が代謝酵素をコードしており、無細胞翻訳系により翻訳される。これらのRNAの複製はいずれも、両方のRNAから翻訳される酵素に依存して起きるようデザインする。本年度はまず、このような協力的なRNA複製システムを液滴内で駆動させることを試みた。特に、RNA配列の最適化 (進化実験で得られた様々なRNAの探索) や無細胞翻訳系の精製によるバックグラウンドの低減を行い、RNA 1とRNA 2が同一液滴内で協力的に複製することを実証した。
上記の反応を十分に達成するためには、現状では約6時間の培養が必要である。このような長い時間スケールでは、液滴同士の融合が無視できず、最初は異なる液滴に存在していたRNA 1とRNA 2が反応中に混ざってしまう場合がある。そのため本年度はさらに、液滴を安定化して融合を防ぐ新規手法の開発も試みた。様々な因子や条件を検討した結果、特定のタンパク質の存在化で液滴が安定化することを見出した。この時、液滴表面の分子透過性はある程度保たれていた。また反応条件の最適化により、RNA複製も起きることを確認した。今後は、この技術を上記の単一液滴内における協力的RNA複製システムに適用し、RNA 1とRNA 2が液滴間の情報伝達を介して複製するシステムを構築する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定であった同一液滴内での2種類のRNAの協調的な複製を達成したことに加え、液滴を安定化する新たな手法を開発することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
独立の液滴に封入された2種類のRNAが液滴間の情報伝達を介して複製するシステムへと拡張する。伝達分子としては小分子やタンパク質を用いる。この実証のために、例えば分子ビーコンを用いた顕微鏡による複製の直接検出を試みる。また情報伝達の程度は伝達分子を蛍光標識し、顕微鏡観察することで調べる。情報伝達が十分でない場合は、液滴の内外液組成を最適化し、拡散速度を調整することで、両方向の情報伝達を介したRNA複製へと拡張する。
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