前年度はビオローゲンユニットにホストとして機能するクラウンエーテル基を導入したが、酸化還元反応に伴ってメチレン部位が脱離することが明らかになった。そこで本年度はナフタレンジイミドにアルキル鎖を修飾した分子を新たに設計し、シャープな電位応答の発現を目指した。シャープな電位応答を生じるためには、(1)酸化還元活性があることに加えて(2)π共役平面の平面性が良いことにより、酸化還元活性部位間の相互作用が生じうること、(3)基板上に配列させるためのアルキル鎖などの側鎖が導入可能であること、が求められる。そこでπ共役平面の平面性がよいナフタレンジイミドを用い、イミド部位にアルキル鎖を導入した分子を設計した。 ビオロゲンの場合と異なり、ナフタレンジイミドは自然電位で中性のため、水への溶解度が低い。そこで、アルキル鎖の片側にカルボン酸残基を導入し、適度な水溶性を持たせた。この分子をアセトニトリルに溶解してCV測定を行ったところ、2段の可逆な1電子還元反応が観測された。この分子を水に飽和させ、ハンギングメニスカス配置にしたHOPGを作用極としてサイクリックボルタンメトリー測定を行ったところ、1電子還元波が観測され、そのピークの半値幅が約72mVであった。これは、基板に吸着した分子の1電子酸化還元波の理論的な半値幅(約95mV)より小さい。この結果はナフタレンジイミドが基板上に並んで分子間の相互作用が生じ、1電子還元体同士の相互作用が生じたためと推測される。
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