本年度は,前年度合成に成功した人工分子トランスデューサーの生体膜内部における物性評価を行った.既に人工分子トランスデューサーが膜の内部に導入されることは明らかになっていたため,この状態に対して外部からカルシウムイオンやポリアミンを添加することで,人工分子トランスデューサーのリン酸基を介した非共有結合性の分子間架橋によって自己集合することを期待した.しかし各種分光測定の結果,いずれの実験条件においても人工分子トランスデューサーの自己集合を示唆するようなスペクトル変化を観察することはできなかった.一方で,前年度に合成していた人工分子トランスデューサーのオクタエチレングリコール部位をコレステロールに置き換えた両親媒性分子を別途合成し,リン脂質からなるリポソーム(人工細胞モデル)へと導入するとともに,その外部刺激応答性を同様に検討したところ,驚くべきことにポリアミンの添加に伴ってリポソーム同士が凝集し,多細胞集合体のような物体の形成が観察された.その際,個々のリポソームは破裂することなくその形状を保っていた.一方で,ポリアミンのモノマーに相当する分子を添加してもリポソームの凝集は確認されなかったことから,複数の両親媒性分子とポリアミンが多価相互作用によって分子間架橋することでリポソームの凝集が促進されていることが示唆された.今後は,このリポソーム凝集現象の可逆性を検証するとともに,リポソーム間の物質輸送の可能性についても検討していく予定である.
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