研究領域 | 分子サイバネティクス ー化学の力によるミニマル人工脳の構築 |
研究課題/領域番号 |
21H05876
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
藤本 健造 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (90293894)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2023-03-31
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キーワード | DNA光クロスリンク / DNA鎖交換反応 |
研究実績の概要 |
分子サイバネティクス領域において分子計算の基盤反応と考えられるDNA鎖交換反応を外部刺激により制御できれば、システムとしての多様性や正確な挙動制御等を化学反応により実現できると考えられる。しかし、これら酵素や人工核酸を用いたDNA鎖交換反応では、必ず1本鎖状態と2本鎖状態が混在し、それがノイズとなっている。我々は超高速DNA光架橋反応を既に報告しており、この反応を用いれば、DNA1本鎖状態と2本鎖状態を完全に制御できるのではと着想した。そこで本研究では分子サイバネティクス領域の基盤反応につながるノイズのない精密なDNA鎖交換反応の開発を目的としている。 本年度は、光架橋・光開裂を併用したDNA鎖交換反応の光制御のため応答波長の異なる2つの光架橋素子を組み込んだ多機能DNAの設計と合成をおこなった。ペヒマン縮合を利用してメチルピラノカルバゾール(MEPK)をトータル70%と高収率で合成できることを見出した。次にこのMEPKを用いてオリゴ核酸中での光架橋能を評価すると、400 nmの光を数秒間照射することで相補鎖中のチミンと光架橋することを見出した。一方、どれだけ長時間光照射をおこなっても相補鎖中のシトシンと光架橋しないという思いもよらない結果が得られた。この結果の一般性を確認するため、MEPKの周辺配列を変化させた16種類のオリゴ核酸を用いて光架橋能を解析したところ、チミンとは超高速(秒単位)で光架橋するのに対してシトシンとは全く光架橋しないことを見出した。このチミン特異性を有するDNA光架橋反応はノイズのない精密なDNA鎖交換反応に向けて有用であり、重要な反応開発に成功したと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、光架橋・光開裂を併用したDNA鎖交換反応の精密な光制御に向けて応答波長の異なる2つの光架橋素子を組み込んだ多機能DNAの設計と合成をおこなった。本課題の提案時に、400 nmの光を数秒間照射することにより相補鎖中のピリミジン塩基と光クロスリンクできる超高速光架橋素子ピラノカルバゾール(PCX)の開発に成功していた。しかし、PCXの合成収率がトータルで10%と低く、合成が困難であったため、PCXの合成法の見直しから始めた。ピラノカルバゾールの4位にメチル基をもつメチルピラノカルバゾール(MEPK)であれば、一般的な芳香族骨格形成法として知られるペヒマン縮合を利用することで高収率で合成できるのではと考え、実際にMEPKをトータル70%というかなり高収率で合成できることを見出した。さらに、シトシンとは全く光架橋せずチミン特異的に光架橋するという予期せぬ特性をMEPKが有していることを見出した。本研究で思いもかけずに開発に成功したチミン特異的な光架橋素子(MEPK)を用いれば、より正確な核酸操作が可能と考えられる。以上のことから当初の計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
ノイズのないDNA鎖交換反応による精密な光制御を目指し、可逆的DNA光クロスリンクを用いたDNA鎖交換反応の検証をおこなう。2021年度に開発したチミン特異的な光架橋素子を組み込み、可逆的光架橋反応を用いたDNA鎖交換反応の精密な光制御が可能かどうかを変性PAGEにより解析する。最終的な反応効率や反応速度に影響を与える因子(光応答性人工核酸塩基の位置やオリゴ核酸の長さなど)について最適化をおこなう。その際、2種類の光応答性DNAにそれぞれ異なる蛍光色素を導入、HPLC精製後、DNA鎖交換反応前後におけるDNA1本鎖状態比率の定量的解析をPAGE解析によりおこなう。人工核酸の長さや位置だけでなく光照射時間も変数として、完全な状態遷移が実現できているかどうか検証する。
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