分子サイバネティクス領域において分子計算の基盤反応と考えられるDNA鎖交換反応を外部刺激により制御できれば、システムとしての多様性や正確な挙動制御等を化学反応により実現できると考えられる。しかし、これら酵素や人工核酸を用いたDNA鎖交換反応では、必ず1本鎖状態と2本鎖状態が混在し、それがノイズとなっている。我々は、超高速DNA光架橋反応を既に報告しており、この反応を用いれば、DNA1本鎖状態と2本鎖状態を完全に制御できるのではと着想した。そこで 本研究では分子サイバネティクス領域の基盤反応につながるノイズのない精密なDNA鎖交換反応の開発を目的としている。本年度は2021年度の成果を用いてミニマル人工脳内の化学反応回路の光制御において、領域内共同研究1「C班:条件反射回路(肉、ベル系)への実装を通し光リセットの実現」及び領域内共同研究2「スライム型分子ロボットへの走光性実装を通した異方性の実現」に取り組んだ。特に走光性実装を通した異方性の実現に向けて必要と考えられるDNA2本鎖に対する光操作法の開発に注力した。DNA2本鎖に対して光応答性人工核酸プローブをそれぞれ片側のDNA鎖に同時に相互作用させることでdoubule duplex invasion (DDI)という安定な構造を構築した。400塩基対の長鎖ODNに対して相互作用させ385 nm光照射を1秒おこなったところ、70%以上の高収率でDDI構造が構築できることを見出した。昨年度の成果であるチミン特異性を有するDNA光架橋反応と組み合わせると、ノイズのない精密なDNA鎖交換反応が可能となると考えられ、重要な反応開発に成功したと考えられる。
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